男」「女」の枠を超えて人として好き

徳瑠里香さんの連載「それでも、母になる」、前回に続きトランスジェンダーのナリさんのエピソードです。自分の身体に違和感を持ち、性別適合手術を決意したナリさんでしたが、そこからなかなか先に進むことができません。そんな時、Facebookで知らない人から申請がきてーー。

自分の幸せを摑み取る決意

 悩みながらなかなか前へ進めない日々のなかで、ナリさんに新しい出会いが訪れる。Facebook で知らない人から申請があり、共通の友人が多かったため承認すると、すぐに「間違えました、すみません!」というメッセージが届いた。その送り主が後に妻となる結衣さんだ。同じ市内に住む同級生ということで共通の友人が多かったことが信頼につながり、そこからふたりのメッセージのやりとりが始まる。たわいもないことから踏み込んだ話まで、ゆるやかに途切れることなく続いた。

 ナリさんはまだ会ったことのない結衣さんに自然と、親以外にはしていなかった性転換の話を打ち明けた。結衣さんはその時まで、ナリさんのことを「男」だと思っていた。それでも真剣に受け止めた。

「自分の周りにも性同一性障害の友だちがいたので、動揺することもなくて。打ち明けられた後も、それまでと変わらず、男性として接していましたね。知らないことで失礼がないように、性同一性障害についても色々調べて、この人は男性になろうとしているし、心は男性だから、男性として見ていかなくちゃと思っていました」

 どれだけ良心があっても知識がなければ無意識のうちに相手を傷つけてしまうことがある。結衣さんなりに知識を持ったうえで、ありのままのナリさんと対峙した。結衣さんのなかでは、どんな事情があろうと、ナリさんがナリさんであることに変わりはない。

 結衣さんはその頃、夫の浮気に悩まされていた。付き合っていた頃に発覚した浮気。結婚式から1週間後に、相手の女性と関係が切れていないことがわかった。結婚して2ヶ月後に妊娠をしたが、妊娠中もほとんど家に帰ってこない。離婚をしたいと思ったが、親には反対されるし、生まれてくる子どものことを考えると踏み切れない。そんな悩みを結衣さんもナリさんに何の躊躇いもなく相談した。

「親や子どものことも気にかかるとは思うけど、自分の幸せを一番に考えて」

 結衣さんは、自分らしく生きようとするナリさんのまっすぐな言葉に背中を押された。

「自分のために生きようとしていることがひしひしと伝わってきた。私はずっと子どものために、親のために、離婚はしないでおこうと思っていたけど、自分が幸せじゃなかったら、子どもも結局幸せにできないということに気づいて。信頼できない人と一緒にいて、我慢してイライラしていたら子どもにも伝播しちゃうだろうし。離婚して、実家で一人で育てたほうが、自分も子どももいきいきできると思ったんです。それまではみんなのために離婚は避けようと思っていたけど、自分のために離婚をしようと。彼の生き方を見て、彼の一言で、ホントにそう思いました」

 これまでの関係性がなかったからなのか、ふたりは流れるようにお互いの胸の内を見せ合い、励まし合うようになった。そして、ナリさんは性転換を、結衣さんは離婚を心に決める。

 ちょうどその頃、結衣さんの身体に「子宮筋腫」が見つかった。子宮筋腫は良性の瘤だが、できる場所や大きさによって症状はさまざまで、治療も可能だけれど、不妊の要因にもなりうるし、出産にリスクを伴うこともある。自分はもう子どもを産むことも、再婚することもないだろう。愛梨ちゃんとふたりで生きていこう、そう意を決した。

 ナリさんも、性転換をするということは、女として子宮を摘出する一方、男として精子をつくることはできない。つまり、自分の子どもを望むことはできない。親のために、いつか結婚して家族を持ちたいと思っていたけれど、それは叶わないだろう。自分の本来の性で一人で生きよう、そう決心した。

「男」「女」の枠を超えて人として好き
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それでも、母になる

徳瑠里香

産まなければ母ではないのか、血がつながらなければ家族ではないのかーー。母になること、家庭を持つことに葛藤を抱えていた著者が、奇跡的な妊娠をきっかけに、母子の関係、そして、さまざまな境遇の女性たちを取材する中で考えた家族についてまとめた...もっと読む

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rurika109 【cakes更新】 「男とか女とかそういう枠を超えて、人として好きという気持ちが勝ってる」 結衣さんのこの言葉を聞いた時、自分のなかの思い込みや無意識の偏見のようなものに気づいた。 徳瑠里香 12ヶ月前 replyretweetfavorite