上司がわからず屋なら「退職ブログ」を書いて辞めるしかないのか

経営学者・宇田川元一さんと劇作家・平田オリザさんの対談第2回。組織を強化し、前進させる「対話」の力。一方で、その足かせとなる世代間のギャップや教育の課題。そんな時に撤退するかもう一歩踏み込むか。今回はそんな「対話の難しさ」について話し合います。

対話を遮断する「身体的文化資本」の問題

宇田川 私が企業の中で、対話を促す仕組みの開発を行うにあたって、しばしば直面する問題がありまして。

 外から見ると、問題だらけで困ってそうに見える組織の現場の人から、なぜか「私たちは特に困ってない」という言葉がよく出てくるんです。それでこれに対して、余計なお節介になってしまっては元も子もない。どうアプローチすればいいものか、と。

平田 いくつかの段階があると思うんですが、1つは問題を意識化できていないということですよね。なかったことにしてしまったり、見て見ぬふりをしてしまったり。その場合は、前回でも出てきましたが、意見を言いやすい環境をどう作るかということです。

 もう1つの問題は、教育構造の問題だと思います。あまり世代論は良くないと思いますが、一方でやはり……。

宇田川 ありますよね。

平田 40代から50代の「上の言うことは絶対」つまりトップダウンの上意下達型の組織の名残りがある人たちですね。

宇田川 私の世代です(笑)。

平田 講演をするとその世代の方々からもよく質問を受けます。「自分たちはどうすればいいんですか」と。上は上意下達型の組織人だし、下はアクティブ・ラーニング※とかを経験している。2つの大きな世代に挟まれて、かつ就職氷河期とも重なっている、非常にかわいそうな世代なんです。
※アクティブラーニング:学習者である生徒が受動的となってしまう授業を行うのではなく、能動的に学ぶことができるような授業を行う学習方法

 組織論的な視点で言えば、今後数十年に渡って、日本を悩ませる問題になるでしょうね。ただ、そういった問題があるんだということを意識化するだけでもずいぶん違うと思うんです。

 一方で深刻なのは、若手の、特に女性の社員が「うちの上司はもう無理。変われないと思う」と言う人が多いということです。身体的な文化資本というのは大体20歳から25歳くらいで決定されてしまうんですね。特にジェンダーの問題や、女性に対する偏見がなかなかなくならないのはそのせいでもあります。

 変われなくても上手く社交性で補える人はまだ良くて、たいていの上司は変わらず、自分のやり方を押し通してしまう。その場合はもう辞めるしかないですよね。対話は、相手にも参加の意思がないと成立しない性格のものですから……。

肉を切らせて骨を断つ

宇田川 ただ一方で、私としては、撤退という選択肢を持ちながらも、「もうひと勝負」することもあり得ると考えたい。

 つまり、そいつ(上司)は変わらなくていいから、自分がやりたいことができるように、肉を切らせて骨を断つというか。実を確実に取りに行く、そういう意味での対話もあるのではないかと思います。相手にとってのトリガーは何なのかを見極めるといいますか。

 最近、「退職ブログ」っていうのが流行ってるらしいんですけど、ご存知ですか。「私はこういう理由で、この大企業を辞めた」という。

平田 そんなのあるんですね(笑)

宇田川 あるんですよ。例えば「某大手メーカーは、全然自社の独自技術なんて持っていなくて全部外注してる。バカバカしいから俺はもう辞めた」みたいな。

平田 なるほど。

宇田川 こないだ、先輩がFacebookでシェアしていた「退職ブログ」にはこんなことが書かれていました。

「上司は数字のことしか言わない。使っているツールは古臭い。学ぼうとしない。こんなところで働いていても意味がないから転職した。転職先では、給料も上がって、今のところは幸せだ」という。

平田 なるほど(笑)。

宇田川 そのブログを読んで私が思ったのは、「なぜ、この人は会社というよくわからないものを変えようとしたんだろう」ということでした。つまり、会社が変わらないと、自分は何もできないと思い込んでいるところがあるのではないかと。

平田 そうですね。半径5メートルから変えていくしかないと思います。ただ、本当に酷い時は逃げるしかないんですけど。でも他者との関係をきちっと作っていけば、ちょっとずつ物事は変わっていくんだということが信じられるかは大切な要素ですね。僕は、それをよく小学生に言います。

宇田川 小学生ですか。

平田 小学5、6年生に演劇の授業をやったあとにこう言います。「今日の授業、みんな楽しくやったけど、ちょっとむずかしいところもあったよね。相手を論理的に説得できるとは限らないんだよ」と。

 例えばメロンとイチゴの話です。

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平田オリザ✕宇田川元一 ──「わかりあえなさ」から始めよう

宇田川元一 /平田オリザ

「お互いに”わかりあえていないこと”を認めることが、ビジネスでもアートでも大切である」 大反響につき発売3週間で4刷り決定! 経営学者・宇田川元一さんの著書『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパ...もっと読む

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yamasuk_e 同感。どこに行っても、だれと話しても、これで苦しんでる仲間がほんとに多い。 "組織論的な視点で言えば、今後数十年に渡って、日本を悩ませる問題になるでしょうね。" https://t.co/V9HOVnggsr 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

shigotosoken これ、グラフィックファシリテーション学んでくださっている皆さまに必読! 初回 https://t.co/dZNH6qRI3v 2回目 https://t.co/ByRqhY1njH 講座をやっていると、皆さん手段を探している… https://t.co/LFYqrsoe2J 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

rehamame 平田オリザの主張はいつも好き https://t.co/OM6x9Jg590 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

MotokazuUdagawa 平田オリザさんとの対談、第二回目です。 今回は、自分の環境を変えていくことと対話の関係について考えています。 困っていることを語るということ、そして、それをどのように引き出していくのか、ということの大切... #NewsPicks https://t.co/bxbKcfIkAj 約2ヶ月前 replyretweetfavorite