ミクロな居場所内での役割
うまく回っているミクロな居場所のメンバーは、無意識であれ、それぞれが独自の担当役割を見つけています。役割とは、「周りから必要とされる際に必要なもの」のことです。共通の居場所に自分の役割がわからない人がいると、他の人はどのように接してよいのかわからない状態になります(先ほど述べた「選択肢が多すぎて自由すぎる状態」に)。
たとえば、居心地のよい居場所がある家庭では、親は子供に衣食住を保障し、生きていくために必要なことを教えるなどして、親として「子供を一人前に育てる」という明確な目的と役割をまっとうしています。しかし、そうでない家庭は、子供にとってはものすごく居心地が悪いものです。すると子供は、どうしたら親が親としての役割をまっとうしてくれるのかを無意識的に考え、親の気を引くために非行に走るなどの問題行動を通じて、子供の役割を過剰に演じることで親の役割を求めるのです。
このように親子それぞれの問題行動がなくとも、「家に居場所がない」と、家庭に居心地の悪さを感じながら育つ人も少なくはありません。時にそれが心の傷になり、アダルトチルドレンといわれるような状態になり、そのことが家庭生活の外でも影響を与えてしまうこともあります。
「本音で語ること」と「役割があること」は一見矛盾しているようですが、居場所に役割を果たさない人がいると、そこは居心地が悪くなってしまいます。共通の居場所メンバーが、それぞれ自分の役割を見つけることができ、実際に行動を起こすかどうかが実は重要なのです。
とはいえ、居場所での役割は、自分では把握しづらいものです。多くの人は無意識に役割を見つけるか、役割を見つけられずにトンチンカンな行動を取ってしまうものです。この状態をインプロで考えてみます。
即興で演じる際、偶然であっても無意識に自分の達成すべき目的が明確になり、役割がわかったときには魅力的な演技になります。しかしそうでなければ、何もできないだけでなく、舞台上で浮いてしまうのです。偶然や運頼みではなく、安定して魅力的な即興演技ができるようになるには、お題に忠実な役割を自覚的に見つける力をつけるしかありません。そのためにも居場所での役割について自覚的になる能力を養えるように、いくつかの例を紹介します。