出産直後の晶のもとに届いたメッセージには「千春」という見慣れた文字があった。
【晶、久しぶり。元気にやっとる? そろそろ子ども産まれるんじゃないかと思って】(千春)
返信しようか迷ったけれど、晶は、さっき撮ったばかりの友介の写真と一緒にこう送った。
【今度はサルを相方にして沖縄で漫才はじめます! コンビ名は、ユースケ・チャントセイヤ。ウキキ】(晶)
【え? もう生まれたん?】(千春)
【うん、ちょっと予定日より早まってね。でも、さっき生まれたばっかりよ。だから、一番最初に伝えたのは千春だよ】(晶)
【やっぱり、元相方だからね、虫の知らせかな】(千春)
千春とは、4年大阪で寝食を共にして、漫才界で頑張った仲だ。
虫の知らせが存在するのかはわからないけれど、まだ何か通じ合うものがあるのかもしれない。
ただ、晶には千春には後ろめたさがあった。友介の父親は、おそらく千春の婚約者だからだ。
……もちろん、千春は知らない。
【そっちはどう? もう結婚式したの?】(晶)
【ううん。まだ準備も終わってない。なんか彼がバリ島で挙げたいとか言ってて。沖縄もいいかな、と思ったんだけど、彼が一生に一度って言うから、バリにしようかなって】(千春)
【そうなんだ。おめでとう】(晶)
【沖縄だったなら晶にもきて欲しかったんだけどね】(千春)
バリ島で結婚式挙げたいなんて、そんなベタなこと、お笑いを目指した人間のいうセリフか、と思ったけど、シラフの女なんて、所詮、夢見る少女と何も変わらない。
(あほらし)
それから3往復くらい近況報告をして、晶は千春とのやり取りを終えた。
スカイブルーの背景に浮かんでいる千春のメッセージを眺めると、千春は私とは別の世界に行ってしまったように思えた。
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