野菜炒めの奥深さに目覚める。全旨・町中華 【ピーマン肉炒め定食】丸昭中華料理店

地元民から愛される絶品メニューがある。キャベツがぱりっと新鮮。漬け物はできる限り自家製。安い。女ひとりもOK。5条件を満たす定食屋を『東京の台所』の著者・大平一枝(おおだいらかずえ)が訪ね歩く。儲けはあるのか? 激安チェーン店が席巻するなか、なぜ地価の高い都会で頑張るのか? 絶滅危惧寸前の過酷な飲食業態、定食屋店主の踏ん張る心の内と支える客の物語。商店街の端にある宝物のような中華料理店を紹介する。

 野菜炒めは、料理人にとって気の毒なメニューだと思う。誰でもレシピなしに作れるし、見た目が地味であまり華がない。だいたいどの定食屋にもあって、いろいろ悩んで疲れたときに、まあいいか野菜炒めで、となりがちだ。どうしてもここの野菜炒めでなければ嫌だとか、今日は野菜炒めをもりもり食べるぞーといった強い動機づけがない。
 “あの店の麻婆”とか、“ここのとんかつ”はあっても、あまり野菜炒めは聞かず、“まあいいか”と言われてしまう料理なのだ。ベンチ落ちなしのスタメンではあるが、ちょっとかわいそうな立ち位置である。

ピーマン肉炒め定食。日替わりの定食は100円安い

 ところが、丸昭のピーマン肉炒め定食を食べて脱帽、野菜炒めに謝りたくなった。単純な塩味ではない。チキンベースの中華味ともいえない。なんなんだ? このあとをひく複雑な旨味は。

 メニュー名はピーマン肉炒めだが、野菜は5種。ピーマン、白菜、ヤングコーン、にんじん、玉ねぎ。さらにマッシュルーム、きくらげ、豚肉が加わったものが大皿にたっぷり。
 もっとも衝撃を受けたのは、歯ざわりだ。すべての食材の歯ごたえが違う。ヤングコーンひとつまでそれぞれの食材の理想の歯ごたえに整えられている。「なんかこの中にシャキッ、ゴロッとした大きめの粒、ありませんか?」。元料理編集者、現書籍編集者のモトさんがもぐもぐしながら言う。おお、よく見たら、これは玉ねぎでは? みじん切りよりもう少し大きめだ。こんな玉ねぎの切り方を野菜炒めで見たことがない。


八幡山駅から徒歩1分

 店主の2代目舘野栄さん(46歳)は語る。
「おやじの代から歯ごたえだけはめちゃめちゃこだわっています。粒大の玉ねぎ? はい、歯ごたえを良くするためにそんな切り方にしています」
 ピーマンは6~7ミリ幅、にんじんは糸のような千切りと、切り方が違う。シャッキリ感がしっかり残っている白菜のように、鍋に投入するタイミングも計算しているのだろう。

 肝心な味付けの秘密は──?

「ベースは自家製ねぎ油と塩ですが、ほんの少し豆板醤を足しています。山椒油、ラー油も店で作っています。そのほうが断然おいしいから」(舘野さん)。

 油から違うとは。私は唸る。野菜炒めって、こんなに奥深い料理だったのか!


ザーサイ(右)とメンマ(ラー油添え)各350円。どちらも自家製で、つまみでも大人気

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東京の台所

大平 一枝
平凡社
2015-03-20

この連載について

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そこに定食屋があるかぎり。

大平一枝

絶滅危惧種ともいわれながら、今もなおも人々の心と胃袋をつかみ、満たしてくれる「定食屋」。安価でボリュームがあり、おいしく栄養があって…。そこに定食屋があるかぎり、人は店を目指し、ご飯をほおばる。家庭の味とは一線を画したクオリティーに、...もっと読む

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コメント

semlabo こういうところで酒飲みたい 5日前 replyretweetfavorite

piyogator 八幡山って決して近くないけど、行きたくなる感じ🍚 6日前 replyretweetfavorite

n_china19 こういうの好き。 6日前 replyretweetfavorite

anzukko1014 https://t.co/vfNbGQmDnU 6日前 replyretweetfavorite