うつとつきあいながら生きる人たち
Cさん(男性、50代)の場合
Cさんは、対人関係が上手ではない人です。自衛隊のある部署で、職場全体を見て統括する立場にいましたが、この人も頑張りすぎてうつになりました。
100キロマラソンやトライアスロンに出場する屈強な男の人で、「趣味は自分をいじめること」みたいな人です。
その人が、定年4年ぐらい前に初めてうつになって、「ぼく、なんでうつになったのかわかりません」という感じで私のところへ来ました。
真面目なので、言われた通りに休むし、お休み中でも週に1回はカウンセリングに来てくださいと言うと、それをきっちり守る人です。
毎日毎日気づいたことについて話していき、もう少ししたら出勤を始めてもらいますよと言ったら、こう言い出しました。
「ぼく、気づいたことがあるんです。ぼく、今まで勤めたんだけど、自衛隊は向いていないとずっと思っていました。ぼくのやりたいことは、これじゃなかったんです」
三十何年、自衛隊に勤めていた人がそう言うのです。
「わっ、すごい発想になりましたね。それで何になりたいんですか」
「料理が好きで、子どもが好きなので管理栄養士になりたい。子どもを食育する人になりたいです」
「なるほど、なれると思いますよ。そうなるためにはどういうハードルがあるんでしょうね。そこに目標を決めて、バックキャスティングでやっていきましょう」
ということで、
◦管理栄養士になるには、栄養士の資格を取る必要があるので、短大に行く
◦短大に行くには、自衛隊を辞める
◦自衛隊を辞めるには、職場の上司に相談する
そんなマトリックスを作って、順番にやっていこうという話になりました。
奨学金などについても、自分のわかる範囲で情報を提供しました。
本人は、「今までの勤務実績があって退職金もほどほど出るので、苦しいけれどもなんとかなるし、家族にはそう言います」ということで、実行に移して、今は本当に栄養士さんになっています。
Cさんも、イヤな気分がたまに出てきます。うつ気質というより真面目なので、社会の不条理にぶつかると煮詰まってしまうのです。
そのたびに私と話をして、「そうですよねえ、いやいや、言ってもしょうがないと言われるのはわかっているんですが、スッキリしました」と帰っていきます。
真面目なのは悪いことではないので、イヤな気分になってもその都度「自分って真面目なんだな、不器用なんだな」と、今の自分を確認できれば大丈夫だと思います。
私はいつもCさんにこう言っています。
「弱かったり不器用だったりでもいいんです。だから人は手を差し伸べようと思うし、だから仲間になってみんなで支え合おうと思うんだから、ラッキーじゃないですか。また、そこにたどり着いたんですね。何回も楽しめばいいんですよ」
Dさん(女性、30代)の場合
Dさんは主婦で、ご主人がアルコール依存症です。彼女はいろいろと苦労して、今でもイヤな気分とつきあっています。
Dさん自身は、ちょっと空気が読めなかったり、私と似ているところもある人です。そのために片づけが上手でないとか、思いついたらダーッと行動するようなところがあって、それで失敗することもあります。
その上、小さい頃から「バカだ、バカだ」といじめられていた経験があるので自信がなく、自分は知的に弱いと思ってきたのです。
対人関係に関しては、「一回もお友だちができたことがない」とのことでした。
その人には、コラージュ療法で自分と向き合ってもらいました。
広告などを見て、ピンとくるものがあれば切り取って、それを紙の上に自分なりに並べてみて、「これが一番心地いい」と思えるように貼ってみるというものです。
これをずっとやりながら自分自身と向き合って、自分に関する発見をしていくということを続けてもらったのです。
すると、だんだんDさんに自信が湧いてきました。
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