時は1927年、10月1日の出来事である。
場所は中華民国江西省と湖南省との境界地帯。中央政府の統治の及ばぬ、山深い土地だ。
「兵が減りすぎた。部隊を縮小しよう。一師団を一連隊に、人数が一連隊にも満たない場合は、仕方がないので二個大隊にして……」
悄然とした口調で、師団長が命令を伝える。整列しているのは、いずれも野盗や匪賊と変わらないような格好の兵隊ばかりだ。本当に匪賊崩れの者もいた。どの顔にも、敗戦への疲れと絶望の色が浮かんでいた。
誰かのため息が聞こえた。小声で逃亡の相談をする者もいた。
——はなはだ威勢に欠けた光景であった。
同年四月、中国国民党右派の指導者・蔣介石が上海クーデターを発動し、それまで協力関係(=第一次国共合作)にあった中国共産党員に対する血の粛清を開始した。加えて、共産党自身が扇動した過激な農民暴動によって、元は彼らに対して比較的融和的だった左派の汪兆銘率いる武漢政府も、やはり共産党に対して見切りをつける。やがて七月になると、共産党に味方する勢力は広い中国大陸のどこにもいなくなっていた。
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