毛沢東(中華人民共和国初代国家主席)
【第1回】「母ちゃんの腹」から生まれた庶民的独裁者

悪の親玉としてイメージされがちな「独裁者」たち。この連載では、世界の独裁者たちが、若い頃にどのような知識や価値観、思想などの「教養」を得て、それをどう国家支配に反映させたのかを読み解いてゆきます。今月は中華人民共和国初代国家主席の毛沢東。昨今、中国各地で発生した反日デモでも、老若男女のデモ隊が毛沢東の肖像画を掲げている光景が見られました。日中情勢が変化している今だからこそ、読んでほしい連載です。(『独裁者の教養』より)

時は1927年、10月1日の出来事である。

場所は中華民国江西省と湖南省との境界地帯。中央政府の統治の及ばぬ、山深い土地だ。

「兵が減りすぎた。部隊を縮小しよう。一師団を一連隊に、人数が一連隊にも満たない場合は、仕方がないので二個大隊にして……」

悄然とした口調で、師団長が命令を伝える。整列しているのは、いずれも野盗や匪賊と変わらないような格好の兵隊ばかりだ。本当に匪賊崩れの者もいた。どの顔にも、敗戦への疲れと絶望の色が浮かんでいた。
誰かのため息が聞こえた。小声で逃亡の相談をする者もいた。
—はなはだ威勢に欠けた光景であった。

同年四月、中国国民党右派の指導者・蔣介石が上海クーデターを発動し、それまで協力関係(=第一次国共合作)にあった中国共産党員に対する血の粛清を開始した。加えて、共産党自身が扇動した過激な農民暴動によって、元は彼らに対して比較的融和的だった左派の汪兆銘率いる武漢政府も、やはり共産党に対して見切りをつける。やがて七月になると、共産党に味方する勢力は広い中国大陸のどこにもいなくなっていた。

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この連載について

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独裁者の教養

安田峰俊

悪の親玉としてイメージされがちな「独裁者」たち。しかし、彼らは優れていたからこそ「独裁」を行えたはずです。そこで、この連載では、世界を代表する独裁者たちが、若い頃にどのような知識や価値観、思想などの「教養」を得て、それをどう国家支配に...もっと読む

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