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「華族様」という文化をご存知だろうか。
ゼロ年代、ガラケー時代のSNSのはしり、「前略プロフィール」で流行していた文化だ。自分のプロフィールを記入し、自分のネット上での名前を名乗り、そして、同じようにしている遠くの誰かと疑似家族の誓いを交わす。それが「華族(かぞく)」。イメージ的にはこんな感じだ。
vvv愛方vvv
戀華-RenKa-
ドSでヘタレな可愛ぃ愛方(殴
since2003/7/7xxx
ぉ姉様ο
紫月晶-シヅキ アキラ-sama
中性池様vてか、美人様?
素敵すぎて管理人からナムパしました(゚∀゚)アヒャ←変態
華族の誓いを交わした相手と相互リンクを貼ることで、互いが華族であることを、アピールしつつ、確認し合う。お察しだろうが、太宰治の「斜陽」とかに出てくるような日本史上の「華族」とは全く関係がない。「愛方」は「相方=恋人」、「池様」は「イケメン様」のこと。教科書的日本語をバキバキに破壊しつつ、華族たちは……多くはヴィジュアル系文化で育つ、いわゆる「バンギャ」たちは、語り合う。ガラケー画面越しに。大人にはわからない言葉で。
あなたには、そんな人がいただろうか?
公的になんの絆もないけれど“カゾク”、そんな人が、いただろうか?
わたしには、いなかった。
欲しくないもん、って、唇を噛んでた。
要するに「死にたい」という内容の歌詞を叫ぶヴィジュアル系バンドの曲ばかり聴いて、イヤホンで両耳を塞いでいた。
「もう何も欲しくない」
「僕にカミソリを!」
そういう中学生だった。
大人になった。
元ヤンの店で飲んだ。
「いやー、わかるわかる。それって俺らにとってのさ、尾崎っしょ?」
尾崎豊とヴィジュアル系をカジュアルに並べられたけどただ笑うだけ。わたしは、大人になった。ただ好きなバンドが違うだけでいがみ合うという神宮橋での抗争は遠くなった。夜の校舎窓ガラス壊して回ったのかもしれない彼は今、自分の店のバーボングラスを、大事に磨く大人になった。多分、納税している。自営業だから確定申告してる。で、住民税払ってるんだろう。それは今、この街の公立中学校の窓ガラス修理代になっているんだろう。神宮橋はもはや黒くなくカラフルポップで、文化庁もご注目のクールジャパンっぷりである。Kawaii〜。
つまらねえと思っていた大人ってやつにわれわれもなったみたいで、合法的飲酒ができてしまう。
チリン。
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