恋とか愛とか社会運動とか

恋人に「わがまま」を言えますか?

恋バナ収集ユニット・桃山商事の3人と、『みんなの「わがまま」入門』の著者であり社会学者の富永京子さんによる短期集中連載がスタート!「恋愛×社会運動」というちょっと変わった切り口でワイワイ語らっていきます。第1回目は、恋人にわがままが言えないという悩みや、価値観の押し付けあいについてです。
同時公開の『みんなの「わがまま」入門』本編とあわせてお楽しみください。

「わがまま」のハードルを下げる

【登場人物】

富永京子
立命館大学産業社会学部准教授
1986年生まれの社会学者

清田隆之
桃山商事・代表
1980年生まれの文筆業

森田雄飛
桃山商事・専務
同じく1980年生まれの会社員

ワッコ
桃山商事・係長
1987年生まれの会社員

清田 この短期連載では、『みんなの「わがまま」入門』(左右社)が話題の社会学者・富永京子さんと一緒に、「恋愛とわがまま」をテーマにワイワイ語らっていきたいと思います。

富永 よろしくお願いします。

森田 富永さんは、普段は「社会運動」の研究をされているんですよね。

富永 そうですね。社会運動と言われてピンとくる人がどれだけいるかはわからないのですが、日本で最近大きかったものだと、脱原発や安保法制に対する抗議行動のデモや集会がありますし、「#MeToo」や「#KuToo」といった、意見広告を出したりSNSで広く体験を語るようなものを思いつく人もいるかもしれません。香港のデモも大きく報道されていますよね。ただ、デモのように、ある政策に対して抗議や提案を行ったり、広くみんなに意見を聞いてもらうというタイプの行動だけでなく、ただ単に自分の不満を主張するだけの個人的な行動も社会運動だと、私は考えています。

ワッコ 社会運動というとやっぱりデモのイメージがあって、自分からはちょっと遠いことのような感じがします。

富永 そういう「ちょっと遠いな」という感覚は日本人の中にすごくあると思うんです。例えばデモを見たときに、「なんか迷惑じゃない?」と感じる。あるいはツイッターで、自分に関係のある賃金や税金についての政治的な意見をツイートしようとして、「それってわがままじゃないのかな」「自己責任って言われそうだな」と感じてためらってしまう。

清田 主張や要求ができず、我慢して内側に溜め込んでいくわけですよね……。少し前に「ニュースzero」で月収23万円の男性の生活が紹介され、ツイッターで話題になったことがありました。「平日の食事はおにぎり2つ」でギリギリの毎日だと訴えていた男性に対し、ツイッターではその人の支出の内訳をスクショした画像がアップされ、「無駄な支出が多い」「俺の方がもっと苦しい」などといったツッコミが入っていました。

富永 ある種の下からマウントですね。

清田 その男性の給与は最低賃金に抵触するラインで、残業代もまともに支払われておらず、本来ならそんな状況をつくっている会社や政治が批判されるべきだと思うんですが……。

富永 「みんなで30万円目指そうよ」っていう話になればいいですよね。

清田 こういう“下から目線”の突き上げがあると、どんどん意見が言いづらくなってしまいますよね。

富永 そうやって言いたいことを言えずに、自分の中に苦しみを溜め込んでいけばいくほど、しんどくなると思うんです。実際、税金が高くて困ってる人は死ぬほどいるし、過酷な労働環境で働いている人もたくさんいます。でもそれって、ほとんどが自分のせいじゃないですよね。自分のせいじゃないその現状を、どう社会に訴えていくか……『みんなの「わがまま」入門』では、社会に訴えていくときのハードルをどうすれば低くしていけるのかを考えました。

清田 「わがまま」というキーワードによって、社会運動がぐっと身近になったように感じました。「主義」や「思想」とかって言われるのとはだいぶ違いますよね。

富永 それだとカタいですからね。

清田 「俺そんなに立派なもん持ってないっす……」ってなる(笑)。でも、「わがまま」だと、ああ、自分にもあるなって思えます。

森田 『みんなの「わがまま」入門』には、会社や学校のような日常的な空間や、恋愛のようなプライベートな関係の中にも「政治」や「社会」がたしかに存在すると書かれていますが、我々が恋バナをしていても、ちょっとしたエピソードの中に政治意識の差や思想信条のすれ違いが見えてくることがあるんです。

ワッコ 『モテとか愛され以外の恋愛のすべて』(イースト・プレス)の中にも、そういうエピソードがたくさん出てきますよね。スーパーの豆腐売り場で「消費期限ギリギリの豆腐を買うか、できるだけ新しい日付の豆腐を買うか」で喧嘩をした夫婦の話とか……。

富永 廃棄を少なくして環境に配慮するか、自分たちの生活の便利さを優先するか、みたいな話ですね。個人の目線からすると、お豆腐は量多いし、消費期限長いほうがうれしいですもんね。

清田 この短期連載では、我々の集めた恋愛の「わがまま」についてのエピソードを通じて、恋愛と社会運動を繋げて考えてみたいなと思っています。

森田 正確に言うと「繋げて」くれるのは富永さんで、我々はひたすら恋バナをしていくだけなんですけど。

ワッコ そこはいつもの連載(桃山商事の恋バカ日誌)と変わらない(笑)。

「わがまま」とは何か

清田 富永さんが『わがまま入門』の中で使っている「わがまま」という言葉は、一般的な意味でのわがままという言葉とは、少しニュアンスが違いますよね。

富永 社会運動から話を始めると、例えば、「月収23万円だとキツい」みたいな気持ちを声に出していくと、それはお前のわがままじゃないかと言われるわけです。

森田 「23万円もらえるだけいいじゃないか」とか……。

富永 ただ、「声をあげる」という行為には社会を変えていく力があるんです。「月収23万で生活が苦しい」と言うことによって、自分の賃金が上がる“根っこ”くらいはつくれるかもしれない。あるいは、同じ境遇の人を救うきっかけになる可能性もある。基本的には自分だけのためでいいし、もちろん他人のためでもいいし、自分と他人のためでもいい。とにかく自分あるいは他人がよりよく生きるために、その場の制度やそこにいる人の認識を変えていく行動を、この本の中では「わがまま」としています。

清田 恋愛というプライベートな関係でも、パートナーに対して何かしらの変化を求めることがありますが、それも「わがまま」と捉えてもいいんでしょうか?

富永 いいと思います。それ自体を社会運動とは言わなくても、社会運動の「芽」にはなるよね、という意味で。例えば、パートナーの言動が乱暴だった場合、それに対して自分が「やめてよ!」と言うことは、基本的にはその2人の間の戦いです。ただ、そこでもしも友達に「DVで困ってるんだよね」と相談したり、いわゆるDVシェルターというか、同じような悩みで困っている人向けの駆け込み寺みたいなところに行ったりすることがあれば、一つの問題として、政治化、社会化されることになる。

清田 なるほど。恋愛を「わがまま」や社会運動として捉えると、いろいろ見え方が変わってきそうです。

ワッコ 自分自身がそうなんですけど、恋愛でも恋人に対して「わがまま」が言えない人って結構多い気がします。

「恋人にわがままが言えない」という悩み

清田 じゃあ、ここからは我々が収集した「わがまま」に関する恋バナエピソードを紹介していきたいなと。これは僕らのニコ生番組への投稿エピソードで、ある28歳の女性は、カレシにわがままを言えないのが悩みだと言っていた。自分が彼に会いたいと思ったときに、本当はすぐに連絡して予定を聞きたいのに、それができない。一方の彼はマイペースな人で、突然「今夜会える? 今から家行くわ」とか言ってくるらしいんです。

ワッコ ぶっこみ系の人っていますよね。

清田 彼女は彼のそういう勝手なところがイヤだと思っている。けれど、彼からわがままを言われるのをつい待ってしまったり、言いなりになってしまったりする自分のこともイヤになっている。

富永 「わがまま言えない」と、「わがまま待ち」のコンボですかね……。

清田 わがままが言えないから相手に期待して、でも期待通りに動いてくれないと今度はフラストレーションが溜まるという悪循環……僕もそこにハマりこむことがたまにあります。

富永 理想の社会待望パーソンですね。

清田 手厳しい(笑)。

富永 でも、私自身がそうですからね。フリーライダーというか、他人の「わがまま」にただ乗りするのが一番、ラクですし。誰かが声をあげてくれて、知らないうちに月収50万になっていたら嬉しいじゃないですか。

森田 嬉しいですね(笑)。

ワッコ ただ、わがままが言えない勢のわたしとしては、「パートナーに会いたいって言えない」という彼女の気持ちはわかりみが深かったです。それで思い出したんですけど、昔付き合っていたカレシに、“わがまま牽制球”をすげー投げられたことがあって。

森田 牽制球?

ワッコ 彼は、「前のカノジョがすごいわがままで、深夜に会いたいとか言ってくるメンヘラ女だった」というエピソードを、繰り返し話してきたんです。「君はそういう人じゃないよね?」というプレッシャーを感じて、例えば会社帰りにご飯でもいきたいなーとか思っても、言えなかったですね。向こうから連絡が来るのを待ってました。

清田 あらかじめくさびを打ってきた。

富永 過去の経験の中で培ってきた「彼女ってそういうもの」っていうネガティブな前提が、彼の中であるのかな。もちろん「相手の機嫌が悪いときはこういう会話をすればいいかな」とか、そういう経験の積み重ねで恋愛ってあるものだから、それ自体は否定しない。ただ、一方で、それまでの彼の恋愛経験や背景って、ワッコさんには関係ないですよね。その斟酌をして行動をしろというならば、彼の方も、ワッコさんの過去の恋愛経験や背景に斟酌して然るべきだと思う。

ワッコ 確かに! それちょっと、今さらながら抗議の電話してこようかな(笑)。

森田 お互いの背景や常識は異なるから、常に想像力を働かせる必要はありますよね。でも斟酌しすぎると「わがまま」は言えなくなる……なかなか難しいですね。

「毎回セックスしたい」という「わがまま」

ワッコ ニコ生番組で「恋人のわがままに悩んだことはありますか?」というアンケートを取ったら、「付き合うと契約したその日から、恋人らしい言動を彼氏に求められたのがキツかった」と書いてくれた女性がいましたよね。具体的には、「好きと口に出して伝える、甘える、必ず手を繋ぐ、毎回セックスする」ことを要求されたと。

清田 「恋人らしい言動」を求める彼は、「恋人なんだから、毎回セックスするのが当たり前でしょ」って感覚だったのではないだろうか。本人には「わがまま」を言ってる意識もないかもしれない。

富永 「だって、ドラマとかで観たし。みんなこうやってるんでしょ?」みたいな話ですよね。

森田 自分の常識を信じて疑わない。

ワッコ しかも、その彼は「恋人らしい言動」を求めるオーラは出してくるけれど、はっきりとは言語化しないらしいんです。そして、彼女が応えないと不機嫌になるという……。

富永 不機嫌コントロール型ですか。

清田 ムスッとして忖度を求めるっていうね。

富永 社会運動に対してよくあるバッシングとして「価値観の押し付けでしょ」というのがあって、それを言ったら意見を言うのなんて全部価値観の押しつけなんだけど、実際そう聞こえてしまうような伝え方をしてしまうこともあると思うんですね。この彼氏も構図としては「価値観の押し付け」だと思うんですけど、それをこの方と彼との間でどう解きほぐしていけるかがポイントだと思います。

森田 なるほど。

富永 私は今、母親と海外で同居してるんですが、うちの母親が「もっと早く起きるのが普通でしょ」「常識的に考えたらこんな時間にご飯食べないんでしょ」というんだけど、その普通って何?常識って何?と問うていくことが大事だと思います。常識や普通じゃなくて、あなたが気に入らないだけでしょう、と。それに「ふつう」の皮をかぶせるから息苦しくなる。

清田 わかります。

富永 それと同じで、「女だからこうなんだ」とか「付き合ってるからこうなんだ」みたいな「常識」を振りかざすのではなくて、「俺がこうしてほしいんだ」と正面から言えたらいいですよね。それは私の本でいうところの「わがまま」であり、相手の認識や関係性を変えていける行為だと思います。

森田 言葉に出して要求されたら、彼女の方も交渉のテーブルにつけますもんね。そこで初めて、「わたしは毎回セックスするのはキツイから、月に○回にしてほしい」「いや、できればもうちょっとしたい」という話し合いができるわけで。

富永 男女を問わず、不機嫌コントロール型のコミュニケーションって結構ところどころにありますよね。言葉に出せなくさせているものが、すごく気になります。プライドなのかな?

清田 個人的には、彼自身が自分の欲求を言語化できていないような気がするんですよね。

富永 そうか。言語化できないと要求できないから、機嫌でコントロールしちゃうってことか。それは私もあるな……。

森田 だから主張もしないし、問題と認識しているかどうかも怪しい。そう考えると、「常識」ってすごく怖いですよね。家庭やコミュニティの中で長年培ってきた「当たり前」があると、そもそも問題にたどり着くことすらできない。

富永 よく、社会学を「常識を問い直す学問」と言うことがあるんです。「学」になっているだけあって、常識を問い直すのはそれなりにアカデミックなトレーニングが必要なのですが、「わがまま」は常識を問い直す作業のひとつでもあるんですよね。お互い「わがまま」を言い合うことは、「お前、それは常識じゃないぞ」と言い合うことであって、常識を相対化することに繋がると思っています。

清田 まずは自分の「当たり前」を疑うところから始めてみるのがいいんでしょうね。こんな感じで、これから数回にわたって「恋愛とわがまま」について語っていきたいと思います。

(次回に続く)

構成:森田雄飛
文:富永京子・清田隆之・森田雄飛・ワッコ


深くて楽しいNEO恋バナ「桃山商事の恋バカ日誌」もcakesで連載中!

この連載について

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momowakko 『みんなの「わがまま」入門』の著者・富永京子さんと一緒に「恋とか愛とか社会運動とか」というタイトルの短期連載が始まりました!我々が持ち寄ったエピソードを富永さんがカキンカキン打ち返してくれるアカデミック系NEO恋バナまじ読んで🙌 https://t.co/mbhg4A9sVP 2ヶ月前 replyretweetfavorite

momoyama_radio 『みんなの「わがまま」入門』の著者・富永京子さんと一緒に「恋とか愛とか社会運動とか」というタイトルの短期連載が始まりました!我々が持ち寄ったエピソードを富永さんがカキンカキン打ち返してくれるアカデミック系NEO恋バナまじ読んで🙌 https://t.co/Yb7xstyQNv 2ヶ月前 replyretweetfavorite

yunyunyuan |恋とか愛とか社会運動とか|富永京子/森田雄飛(桃山商事)/清田隆之(桃山商事)/ワッコ(桃山商事)|cakes(ケイクス) 「不機嫌コントロール型」の人と恋愛できる人すごい…私は全力で逃げる https://t.co/Pv8bnRt0Cb 2ヶ月前 replyretweetfavorite

koropanda1 なかなか上手くはできないけど、めっちゃそれ、とは思う | 2ヶ月前 replyretweetfavorite