生命式

皆さん、命をたくさん食べて、新しい命を作ってくださいね」

職場の同僚・山本と、総務の中尾さんの生命式に向かった池谷。リビングに通されると、そこにはもう鍋が用意されていた。生命式を取りしきる中尾の奥さんに促され、二人はテーブルにつくが……。

『コンビニ人間』で芥川賞を受賞し、世界的な注目を集める村田沙耶香さんの最新短編集『生命式』より、表題作「生命式」を全文公開。脳を揺さぶるかつてない読書体験を約束します!

夜、私と山本は連れだって、中尾さんの生命式へと向かった。生命式は生命の誕生を目的とするので、露出が激しい服や華やかな服装が好まれる。私は仕事着のグレーのスーツのままだったが、山本は赤いチェックのシャツに白いパンツを穿いていた。
「やっぱ派手にいかないとな、生命式は」
山本は嬉しそうに言ったが、彼の浅黒い肌にはあまり似合っていなかった。
中尾さんの家は世田谷の高級住宅地だった。ちょうど夕食時で、あちこちから食事の匂いが漂ってきている。その中の一つが、中尾さんを茹でる匂いなのかもしれなかった。
「ここだ」
携帯で地図を見ていた山本が足を止めた。少し年季の入った大きな一戸建ての家で、中からは味噌の匂いがした。
「やっぱ味噌出汁かあ。白味噌も混じってるな。いいな、おいしそうだなあ」
山本は嬉しそうに鼻を動かして、中へと入っていった。

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今や世界が大注目!芥川賞作家・村田沙耶香自身がセレクトした12篇。文学史上、最も危険な短編集!

生命式

村田沙耶香
河出書房新社
2019-10-16

この連載について

初回を読む
生命式

村田沙耶香

「夫も食べてもらえると喜ぶと思うんで」…葬式と違い、国の補助が出る生命式。生命式とは、死んだ人間を食べながら、男女が受精相手を探し、相手を見つけたら二人で式から退場してどこかで受精を行う式で……。 『コンビニ人間』で芥川賞を受賞し、...もっと読む

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コメント

dankogai 筒井康隆の「定年食」と同じあらすじで時代背景が真逆 https://t.co/nEjwyJfUoq 約1年前 replyretweetfavorite

midnight_kurage とても面白いと思う。続きが楽しみ。 約1年前 replyretweetfavorite