推しをオカズにする自分が許せないんです

今回、牧村さんのもとには「私は好きな男性の芸能人がいて、その人を想像しながら自慰することに死ぬほど罪悪感があります」という女性からのお悩みが届きました。「自分の頭が理解できません。本能といえばそうなのかもしれないけど、意味がわからないし、気持ち悪いです」と苦しむ相談者さんに、牧村さんは優しく寄り添いながらも力強いメッセージを送ります。


※牧村さんに聞いてみたいことやこの連載に対する感想がある方は、応募フォームを通じてお送りください! HN・匿名でもかまいません。

「自涜(じとく)」

って言葉、聞いたことありますか?

要は、「自分で自分を性的に気持ちよくすること」。今で言う「オナニー」とか「セルフプレジャー」って意味です。

「自涜」……「自分を冒涜する」と書く、この言葉。近代日本文学だと、「自瀆」っていう旧字体で出てきたりもする、明治時代の日本語です。

明治時代、「西洋諸国に追いつくぞ!我らの日本も先進国だ!!」って頑張っていた日本の人たちは、西洋諸国から言葉と価値観を一生懸命取り入れていました。この「自涜」という言葉もそうやって入ってきたもので、もとはドイツ語の「Selbstbefleckung」です(1)。「Selbst」が「自分」。「Befleckung」が「ケガレ」とか「宗教的な意味で間違った、汚いこと」。くっつけると、「自分で自分を汚すこと」ですね。この「自分で自分を汚すこと」というドイツ語を、「自涜」という日本語として取り入れた。そんな明治時代から始まっているんですよ。令和を生きる私たちが、自分で自分を気持ちよくする時の謎の罪悪感は。

だけれど……自分の体を自分で気持ちよくすることの、一体何が悪いっていうの?

この「自涜」ということばを、「自慰」に言い換えた人たちがいました。その代表が、小倉清三郎(おぐら・せいざぶろう)。明治15年生まれの性科学者です。小倉さんはキリスト教徒でした。初めての“自涜”は、初めて神に祈った日、教会でのことだったといいます(2)

「神様に許されないことを、神様に祈った日、神様の教えが授けられる場所で、してしまった……。」

そんな激烈な苦悩と、自己嫌悪の先に、やがて、「自慰」……「自分を慰めること」という言葉を生んだのです。

自慰行為を汚いことだと思ってしまう、自分を責めてしまう人が、「自慰」という言葉に宿る先人の想いを感じられますように。

「神様の前で罪を犯した自分が許せない」と苦悩した明治時代の小倉清三郎の続きに、令和元年の今日、ご紹介するのは、「推しをオカズに自慰をする自分が許せない」とおっしゃる方からのご投稿です。

牧村さん、こんにちは。 自分の悩みを検索しまくっていたら、この連載にたどり着きました。 長文・悪文で露骨な表現だらけですが、助けていただけたらとても嬉しいです。

私は好きな男性の芸能人がいて、その人を想像しながら自慰することに死ぬほど罪悪感があります。 推しが本当に好きなら、オカズにするのを我慢できるはず。できないのは軽んじているから。いやらしい妄想は推しへの最大の侮辱だ。こう考えているみたいです。 尊敬や親しみを感じて好きになるのはわかるけど、そこからどうして裸を見たいとか触りたいとかの思考が生まれてきてしまうのか、自分の頭が理解できません。本能といえばそうなのかもしれないけど、意味がわからないし、気持ち悪いです。 どうしたら苦痛に感じなくなれるのでしょうか。以上が今回相談したいことです。

ここから長い自分語りになってしまうのですが、悩みと関係があると思うので書きます。

25歳ですが人間関係が苦手なため処女です。同性も異性も友達がいません。 性自認は女だと思います。男性は恋愛的・性的に惹かれ、女性は性的にだけ惹かれることがあります。 人を辱めたり、屈服させたい願望があります。セックスをコミュニケーションではなく辱めだと思っているので、自分の性欲が汚いと感じています。

小さい頃から性欲がコントロールできず、頭の欠陥か、何かの罰なのかとずっと苦しんできました。 3歳くらいの時から、現在とあまり変わらないくらい明確な性欲を感じ、人前での自慰や、性的な言動で、家族や同級生から気持ち悪いとよく言われました。 学校や職場のトイレや保健室で自慰をしたり、ホテルをとって一日中自慰し続けたこともあります。現在も徹夜で自慰をして出勤できなくなる日があります。性的な空想にふけりすぎて、生活に支障が出ることが、情けなく惨めです。

学生のとき心療内科で、発達障害(ASD)の診断を受けました。今は心理カウンセラーにこの悩みを相談中です。 発達障害の人は性的に悩むケースがよくあるらしく、
・暗黙の了解がわかりにくく、エロはダメという建前を信じてしまう。
・新しい考えが苦手で、性欲は悪くないという考えを受け入れられない。
・家族からの性教育のサポートが重要だが、教えられなかった。
などが辛さの原因かもしれないそうです。

また、最近SNS上で女性の方にも相談して、具体的に気が楽になる方法を考えてもらったりしました。自己分析もかなりしました。頭では、性欲そのものが悪くないことは、十分に理解しているのだと思います。

しかし最初の悩みに戻るのですが、性的な気持ちが悪ではないと知っていても、推しに向けることが耐えられません。 恋愛感情とか関係なく人間として好きで、尊敬しているし、いつも幸せでいてほしい。そういう穏やかな気持ちが性欲で台無しにされるのが本当に嫌です。 ファンの人がSNSでエッチな書き込みをしていたりすると、腹がたつのに読みながら自慰をしてしまう、自分の矛盾した行動に吐き気がします。 性欲は推しにだってあるはずなのですが、自分や自分みたいな女性には許せないみたいです。 最近はイベントに行ったりメッセージを送ったりするのも自粛した方がいいとすら思うようになっていますが、いつも欲求に負けています。

この連載の過去の投稿に、歳上の同性の人に、母親のように甘えたい気持ちと性欲とを混同して苦しいというものがあったのを読みました。 私の推しも自分の父親と同い年なのでちょっと共感しました。目上の人に甘えたい欲望と犯したい欲望が混ざっているのが、すごく気持ち悪いです。経験も全く無いくせに。 牧村さんのご回答を読んで考えましたが、私に足りないのは、自己肯定感なのでしょうか?

というか、私は一体何者なのでしょうか。自分の性欲が、名前の付いていない妖怪みたいで、手に負えません。

質問以外のことですごく長文になってしまい、ごめんなさい。こんなイタい文章を読んでいただいてありがとうございます。 牧村さんにはもう相談がいっぱい来ていることと思います。私は現実に誰も傷つけていない悩みです。でもとても恥ずかしくて悲しくて辛いです。 もしお返事をくださったら、とても嬉しいです。

(ご投稿をそのまま全文掲載しました)
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ハッピーエンドに殺されない

牧村朝子

性のことは、人生のこと。フランスでの国際同性結婚や、アメリカでのLGBTsコミュニティ取材などを経て、愛と性のことについて書き続ける文筆家の牧村朝子さんが、cakes読者のみなさんからの投稿に答えます。2014年から、200件を超える...もっと読む

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コメント

sio3rise 良い自慰の記事であった… 歴史も知れる… 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

gohan_tabero なんか、この記事 https://t.co/lr9Rcvq6Gp の相談者さんと同じことを思ってる人がフジョシには多いんだろうなあと思うんだよね。自分の中から自分を突き動かす「欲望」は「汚いものだ」という感覚… 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

kobayashi_mode https://t.co/ukIAmIYwJb 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

angie1216r 牧村さんの回答はとてもアカデミックで素晴らしいのだけど、質問者の頑なそうな心に届くまで時間が掛かりそうだなとも思ったりもした https://t.co/VSMEIuVvlR 約1ヶ月前 replyretweetfavorite