人は己が死ぬとは思わぬ」|気宇壮大(七) 3

豪腕作家として知られる伊東潤が描く、大隈重信の成長譚!
早稲田大学の創始者で、内閣総理大臣を2度務めた大隈重信という男は
どのような人物だったのか?
幕末の佐賀藩に生まれ、
明治期に藩閥政治から立憲・政党政治への道筋を切り拓いた男の思想と生涯とは。
青年期から最晩年まで、
「走る人」「闘う人」「創る人」「聞く人」として駆け抜けた、
令和版大隈像をお楽しみください。

「ははあ、それが武略というものなんですね」

 江藤は得意の絶頂だった。考えてみれば狷介固陋そのもののように思われている江藤だが、誰も寄り付かないので、話をしたくてうずうずしていたのかもしれない。

「わしが考えているのは、攘夷を目的とした開国だ。それゆえ大攘夷なのだ」

「ははあ、なるほど」

 なぜ「大」なのかはさっぱり分からないが、大隈は感心してみせた。

 江藤が口角泡を飛ばして続ける。

「考えてもみろ。幕府の開国策が嫌いで、『攘夷、攘夷』と小攘夷を唱えている連中は、要するに幕府の海禁政策を支持していることになる。そんな矛盾にも気づかぬのだ」

 江藤が一呼吸置いた。大隈はこの好機を逃さない。

「江藤さんのおっしゃることは尤もです。そのためにも、われらは学ばなければなりません」

「その通り!」

「私は『ナチュール・キュンデ』という本に興味がありまして、それを学びたいのです」

「よき心がけだ」

 江藤が積み上げられた書籍の中から『ナチュール・キュンデ』を取り出す。

「その本には、窮理の原理が実利を生み出すもの、例えば蒸気機関などに結び付いていると聞きました。それで、その最も大事な部分を教えてはいただけないでしょうか」

「そなたは、蘭語ができぬのか」

「はい。まだまだ未熟なので、それを読んでも分からず、時間がもったいないと思いました」

 —来るか。

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威風堂々 幕末佐賀風雲録

伊東潤

豪腕作家として知られる伊東潤が描く、大隈重信の成長譚! 早稲田大学の創始者で、内閣総理大臣を2度務めた大隈重信という男は どのような人物だったのか? 幕末の佐賀藩に生まれ、 明治期に藩閥政治から立憲・政党政治への道筋を切...もっと読む

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コメント

kumabouroMM https://t.co/tPVD5NeWTh 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

maito0405 いつやるの、今でしょ(江藤風にいえば「今だろ」)!という懐かしのフレーズが飛び出しそうな展開 約1ヶ月前 replyretweetfavorite