今、気づいたんならそれでよい」|気宇壮大(七) 2

豪腕作家として知られる伊東潤が描く、大隈重信の成長譚!
早稲田大学の創始者で、内閣総理大臣を2度務めた大隈重信という男は
どのような人物だったのか?
幕末の佐賀藩に生まれ、
明治期に藩閥政治から立憲・政党政治への道筋を切り拓いた男の思想と生涯とは。
青年期から最晩年まで、
「走る人」「闘う人」「創る人」「聞く人」として駆け抜けた、
令和版大隈像をお楽しみください。

「ははは、早速核心を突いてきたな。では、逆に聞く」

 江藤が机を叩くと、埃が飛び散った。

「夷狄(欧米諸国)どもが日本にやってくる理由は何だ」

「日本に通商を求め、また鯨船(捕鯨船)のために薪水を供与してもらおうという狙いからではありませんか」

 大隈は即答した、ここで気の利いた答を言うより、江藤に否定させ、気分よくしゃべらせた方がいいと思ったからだ。

「違う!」

 江藤が唾を飛ばす。それが大隈の手元まで飛んできたので、大隈は慌てて手を引っ込めた。

「彼奴らが日本近海に出没しているのは、われらの状況を探るためだ。内の深浅を測ることで、大型船がどこまで近づけるかを探り、諸港の砲台を観察することで、どこから上陸すれば最も損害が少ないかを考えているのだ」

 —少し意識過剰ではないか。

 大隈はそう思ったが、江藤の話の腰を折ることはしない。

「そうだったんですか。気づかなかったな」

「今、気づいたんならそれでよい」

 江藤は腕を組み、悲憤慷慨するように語った。

「日本は島国なので、すべての港を守ることなどできない」

「もちろんです。日本は海に囲まれているだけではなく、藩ごとに海防意識がまるで違います。意識の低い藩の港から上陸すれば、海防に力を注いでいた藩の砲台など、意味を持ちません」

「その通りだ。彼奴らの力をもってすれば、わが国など赤子同然だ」

 江藤が口惜しげに唇を噛む。

「では、なぜ夷狄たちは、さっさと上陸してこないんですか」

「なんだ、そんなことも知らんのか。彼奴らは彼奴らで牽制し合っており、互いに喧嘩せずに獲物を分かち合おうとしているのだ」

「ははあ、なるほど。では、江藤さんが将軍様なら、いかがいたしますか」

「将軍様か。そいつはいいな」

 いつの間にか江藤は上機嫌になっていた。

「わしの考えを教えてやろう」

「ぜひ」と答えて大隈が身を乗り出す。

「まずは彼奴らを騙す」

「騙すって、夷狄をですか」

 大隈は啞然とした。

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威風堂々 幕末佐賀風雲録

伊東潤

豪腕作家として知られる伊東潤が描く、大隈重信の成長譚! 早稲田大学の創始者で、内閣総理大臣を2度務めた大隈重信という男は どのような人物だったのか? 幕末の佐賀藩に生まれ、 明治期に藩閥政治から立憲・政党政治への道筋を切...もっと読む

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kumabouroMM https://t.co/OJOJNRJaIe とても楽しい、、、 約1ヶ月前 replyretweetfavorite