「インスタ映え」を意識してモノを作らない
美術館のマーケティング担当というと、どのようなイメージが浮かびますか? 実際には、これまでの連載で述べてきたように地道な作業の積み重ねです。あくまで主役は、アーティストと作品、そして展覧会です。
企画とマーケティングは完全に分かれています。ですから、マーケティングの立場から、もっと「インスタ映え」する展示をしようといった提案を、企画側にしたことはありません。おそらくマーケティングの発想で「インスタ映え」を狙った展覧会をやったら、みなさん興ざめすると思うのです。
たとえば壁に大きな翼が描かれていて、そこに立つとあたかも自分に翼が生えたように見える。そんな自分を写真に撮って、インスタグラムに投稿する。そんな「インスタ映え」を意識した展示を森美術館で見たいでしょうか?
私は「インスタ映え」などを意識しないで制作されたものが、意図せず結果的にすごい見え方になったときに、「インスタ映え」になるのではないかと考えています。その偶然性こそが面白い。現在の「インスタ映え」という言葉にはマーケティングの作意が入りすぎています。「インスタ映え」という言葉自体も、正直、気持ちのよい言葉でない気がします。
61万人が来館した「レアンドロ・エルリッヒ展」も、もちろん「インスタ映え」は意識していません。結果として、インスタグラムで多くの投稿をしていただきましたが、あくまで結果にすぎないと考えています。
この経験からいえることは、「映え」を狙った奇異な企画や商品開発、お店作りよりも、基本はきちんとしたものであることを前提にすべきだということです。そのうえで、「別の視点から見ると面白い」「偶然性がある」「外部の人がなぜか珍しがる」というような、ユーザーの興味ポイントに担当者が気づけるかどうか。その繊細な部分をキャッチできるかが大切になってくると思います。
話題になったメニュー「ブラックホールかきあげ丼」
ただ、例外があります。それは、プロモーションツールです。プロモーションツールに関しては、マーケティングの領域ですから、「インスタ映え」を意識して制作するのも面白いかもしれません。
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