コラム④ ユンガー問題
作家のエルンスト・ユンガーは、ハイデガーにも大きな影響を与えた、保守革命派の先鋭的な思想家でもあった。その極めて特異な思想の源泉は、第一次大戦時の凄惨を極めた西部戦線での体験にある。
志願兵として最前線の戦闘に身を投じた若き日の彼は、一年後には少尉となり、突撃隊長ともなっている。以後、四年間、塹壕で戦い抜き、重傷で入院すること七回、大小十四ヵ所もの傷を負いながら、友軍の救出に於いて比類ない勇敢さを発揮し、まさしく〝英雄的〟として、第一級鉄十字勲章、更にはプロイセン最高の栄誉であるプール・ル・メリット勲章を授与されている。
戦間期には、ヨーロッパが初めて経験したこの凄絶な物量戦の現実を、鮮烈に、時に陶酔的に描出した日記文学の傑作『鋼鉄の嵐の中で』で世に出て、『総動員』を始めとする政治的著作で社会に衝撃を与えた。
ファシズムの理論家と目されたが、ナチスには一貫して批判的で、第二次大戦末期には、有名なヒットラー暗殺計画にも間接的に関与し、辛くも処刑を免れている。
因みにユンガーは、この不死身とも言うべき生命力の強さで、戦後も旺盛な執筆活動を続け、一九九八年に百二歳で死んだ。