平野啓一郎
第9章それは「男の美学」なのか?|8反逆の魅惑
「カッコいい」の悪用に対しては、私たちはそれを「カッコよくない」、あるいは「カッコ悪い」とキッパリと言わねばならない局面があるだろうーー。平野啓一郎が、小説を除いて、ここ十年間で最も書きたかった『「カッコいい」とは何か』。7月16日発売の新書を全編連載。 「カッコいい」を考えることは、「いかに生きるべきか」を考えることだ。(平日毎日更新)
8 反逆の魅惑
反体制、反ブルジョワのナチス
連続性と断絶、類似性と差異への注目は、「カッコいい」という体感の悪用と善用の歴史を再検証させるであろう。
ナチスに関連づけてもう一点、指摘するならば、反体制、反ブルジョワ社会という態度にも言える。
「アンドレイア」の②にあった通り、古代ギリシア以来、正義と社会とが乖離しているように見える時、体制に反抗するのは「男らしい」勇気と賞賛されてきた。その正義の根拠が自然なのか、神なのか、形而上学なのかの違いはあろうが、ミルトンのサタン以来、ダンディズムを経て、モッズに至るまで、そうした「カッコよさ」の歴史は、脈々と受け継がれている。
ところで、ナチスがあれほどまでに民衆の支持を得たのは、反共姿勢や経済危機から救ってくれるという期待もさることながら、一つには、腐敗したブルジョワ社会と、保守的なキリスト教道徳への徹底的な批判の故だった。
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この連載について
平野啓一郎
『マチネの終わりに』『ある男』を発表してきた平野啓一郎が、小説を除いて、ここ十年間で最も書きたかった『「カッコいい」とは何か』。7月16日発売の新書を全編連載。 「カッコいい」を考えることは「いかに生きるべきか」を考えることだ。(平日...もっと読む
著者プロフィール
1975年愛知県蒲郡市生。北九州市出身。小説家。京都大学法学部卒。1999年在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。以後、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。2004年には、文化庁の「文化交流使」として一年間、パリに滞在。
著書に、小説『葬送』『滴り落ちる時計たちの波紋』『決壊』(芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞)『ドーン』(ドゥマゴ文学賞受賞)『かたちだけの愛』『空白を満たしなさい』『透明な迷宮』『マチネの終わりに』(渡辺淳一文学賞受賞)『ある男』(読売文学賞受賞)、エッセイ・対談集に『私とは何か 「個人」から「分人」へ』『「生命力」の行方~変わりゆく世界と分人主義』『考える葦』等がある。
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