第9章それは「男の美学」なのか?|6フランス革命と男らしさ

第二次世界大戦を経験した私たちは、「愛国心」が課される対象を、当然のように「国民」だと考えるが、その制度的な起源に於いて、担い手はむしろ「市民citoyen」だったーー。平野啓一郎が、小説を除いて、ここ十年間で最も書きたかった『「カッコいい」とは何か』。7月16日発売の新書を全編連載。 「カッコいい」を考えることは、「いかに生きるべきか」を考えることだ。(平日毎日更新)


6フランス革命と男らしさ


近代最初の徴兵制度

 さて、もう一点、「戦う」ということの「カッコよさ」、更にはその国家権力との関係を「男らしさ」を通じて考えてみたい。引き続き、参照するのは『男らしさの歴史』である。

 日本の「カッコいい」にせよ、「クール」にせよ、「ヒップ」にせよ、「ダンディズム」にせよ、共通した美徳の一つに自己抑制がある。

 何かにつけてすぐに激昂し、ワーワー喚き立てる人は、とても「カッコいい」とは言えまい。

 ところで、この抑制された「クール」な態度に関しては、必ずしも古代ギリシアの「アンドレイア」で強調されていなかった。宮廷文化というのは、その一つだったが、もう一つの近代に於けるきっかけは、徴兵制である。

 近代最初の徴兵制度は、フランス革命末期のジュールダン法である。

 歴史家のジャン=ポール・ベルトーによると、戦場での殺し合いを仕事とする軍人は、一八世紀までは啓蒙主義者たちからも軽蔑され、市民社会の中での地位は決して高くなかった。

「執政政府時代のブルジョワにとって、軍人とごろつきは同じものだった。」

 実際、日常空間に戻ってきたあとの彼らの粗暴な振る舞いを市民は持て余していた。恐らく、精神的にも不安定になっていたのだろう。

 旧体制下では、軍人や民兵は、せいぜい数万人程度の例外的存在だったが、一七九八年にジュールダン法が出来ると、二十歳から二十五歳までの独身男性が、戦時に限らず、平時にも四年間の軍務を課されることとなり、拒否すると市民権や財産権が制限されるなど、厳しいペナルティが科された。

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カッコいい」とは何か

平野啓一郎

『マチネの終わりに』『ある男』を発表してきた平野啓一郎が、小説を除いて、ここ十年間で最も書きたかった『「カッコいい」とは何か』。7月16日発売の新書を全編連載。 「カッコいい」を考えることは「いかに生きるべきか」を考えることだ。(平日...もっと読む

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