真壁ケンジ役・加藤将之氏【後編】
「こんな表現をしたい」という思いが
はっきりなければ、声の演技なんてできない

アニメ『宇宙兄弟』の真壁ケンジ役の加藤将之さんが声優を志したのは、アフリカのサハラマラソンに参加中のことだったという。一週間かけて砂漠を走るというかなり過酷なレース。疲れ果て、砂漠の真ん中を歩いているときに「自分のやりたいことをやろう」と決意したそうだ。 後編では、その決意から実際に声優になるまで、そしてなってからについてのお話を伺った

—サハラ砂漠を歩きながら決意したほどですからその後、よほど強い意志で声優業にまい進していったのでしょうか。

 決意が固かったのは確か。ただ、実際の歩みとしては、紆余曲折や挫折にまみれながらですよ。そもそも、会社を辞めて声優になりたいと両親に伝えたときも、大反対されました。
「せいゆう? スーパーの西友か」
「いやその西友じゃなくて……」
 なんてやりとりがあったり。とにかく、理解してもらうことすら難しい状態。経済的な援助もしないし、一年ごとに何らかの成果を示さなければ認めないと言い渡されました。

 すでに20代の後半になっていたし、自分としても崖っぷちにいるつもりでやらねばという気持ちはもちろんありました。そこでまず声優養成学校に入りました。一年以内に成果が要るので、その条件に合いそうなところを選びました。ちょうどCS放送が始まったころで、声優を募集するオーディションはたくさんある時期だったのはよかった。仕事のお話があればできるかぎり手を挙げるようにして、少しずつでも実績を積み上げられるようにしました。養成学校を出たら事務所に入って、いちおうは声優を仕事にすることができたわけです。でも、最初はなかなか仕事がもらえなくて、つらい思いをすることも多かった。事務所の同期と比べても、どうも出遅れている感があって。

—なぜだったのでしょう。実際に声優業に携わってみると、思い描いていたときには気づかない難しさがあった?

 自信はあるつもりだったんです。でも、いざマイクの前に立つと、ぜんぜんダメでした。セリフを間違わずに発することはできても、それ以外のことが何もできない。これじゃ何もかも足りないと、思い知らされました。それなのに、何がダメでどう直せばいいのかすらつかめない。考えてみれば、それはそうです。養成所で教えてもらえることというのは、算数でいえば九九とか、国語でいえば五十音の読み方を覚えるというレベルのもの。現場では、じゃあその五十音を使ってどんな作文が書けますかということを求められる。つまりは、声で表現するということが、まるっきりできていなかったんですね。

 演じるということを意識していなかったし、そもそも演技というものが何なのか知らないままきてしまったわけです。「こうやって演じたい、こういう表現をしたいんだ」というものが、自分の中になかった。それじゃだめですよね。仕事が月に一本くらいしかなかったりして、アルバイトばかりしていた時期が続きました。意気込んで声優になったというのに、いったい何やってるんだろうと思い悩みましたね。

 でも、じゃあどうすればいいかといえば、ひたすら自分で勉強するくらいしか道はない。色々な本を読んで、映画を観て、地道にボイストレーニングをして声をつくりながら、与えられた役だけでなく、自分以外の役もそのつどしっかり考え、捉えようとすることを繰り返しました。先輩方の演技から吸収できるところはないかと、必死に観察もしましたよ。

 『宇宙兄弟』の現場でもそうです。六太を演じる平田広明さんと、マイクを挟んでいっしょにお芝居できるというのはうれしいし、学ぶところがいくらでもあります。テレビを観ている人はもちろんそんな事情は知らないでしょうけど、こっちは「うまくできるだろうか、平田さんについていけるだろうか」とハラハラしながらやっています。役柄の上では、六太のほうがケンジを「こいつスゲーな」と見ていますけど、声の現場では僕が、平田さんの演技に圧倒されっぱなしなんです。

—あまりにまっとうな人間であるケンジは、演じるにはかなりハードルが高いように思えます。

 難関ですよ。今だからなんとかやっていますけれど、以前なら無理だったんじゃないか。自分に似ているところは限りなく少ないから、もうこれは想像上の動物を演じるのに近いものがある。僕が拠りどころにしているのは、やっぱり原作のケンジです。いかに原作のイメージを忠実に再現できるか、それがうまくできれば、ごく自然に個性的な真壁を表現できるのだと思います。

 原作者がいて、作品を楽しみに読む人がいて、その上でアニメ作品があり、僕が声を担当させいただいています。原作を逸脱してまで僕の個性や思いを投影していくのは、ちょっと違うと思う。原作を読んでいる人には、きっとそれぞれの「ケンジ像」がありますよね。それを勝手に壊す権利が声優にあるはずはないだろうと思うんですね。

—では、自分の「色」のようなものは出さないように注意を払っている?

 大枠ではそうです。原作に基づくアニメの中のケンジという存在があり、その人間像をよりはっきり伝えるためにどんな音・言葉を出せるか。そこに集中していきます。ただ、こまかいところではけっこう勝負しているというか、いろいろ自分なりの工夫はしてるんですけどね。

 たとえば、閉鎖環境での選抜試験が終わった後、六太がケンジの家に遊びにくる場面がありました。ふたりで溝口の話をしていて、ケンジが、彼の必死さには勝てなかったよと言う。本番の声の収録でそのセリフを言い終えたとき、僕はごく自然に小さなため息をついたんです。そんな演技プランがあったわけでもないのに、ふっと出た。分かるか分からないかという程度のものですが、有難い事にそこはカットされずにオンエアしてもらえました。ごく小さなため息に、そのときのケンジの気持ちがうまく乗せられたかなと思います。

—弱気な声やさびしそうな声を出すのではなく、ほんのちょっとしたため息に気持ちがにじみ出てしまうところがケンジらしいですね。完璧に見えるけれど、やはり彼も30歳過ぎの一人の人間だと気づけてほっとします。ほかにケンジらしさを出すためにしていることは?

 言葉の前に、よけいな音を発しないことですね。「うーん、●●だね」とか、「あー、それは……」というような音を、僕らはふだん話し出す前にけっこう使っています。でも、ケンジはきっとそうしない。まっすぐな性格で、自分が言うべきことも心得ているから、曖昧な音を紡ぎだすなんてことはないのかな、と。語尾もそうです。だらだら伸ばしたりせず、きちんと収める。ひとつのセリフではあまり分からないことかもしれませんが、これを徹底して繰り返すことで、「ああ、ケンジはやっぱりなんだかキビキビしたしゃべり方をする人だな」という印象を、観る人が感じてくれたら嬉しいと思いますね。

 声優である僕はケンジの行動を決められるわけでもないし、表情を動かせるわけでもない。声という限られた部分しか担えないけれど、ケンジという存在をくっきり浮かび上がらせることはけっこうできるんじゃないかと信じたい。声優は声に優れているから声優なのではなくて、声のお芝居に優れているから声優なんです。これ、先輩の受け売りですけど、その通りですよね。ケンジという役を、きっちり演じ切ることができたら。今はそれだけを思っています。

(おわり)

取材・文/山内宏泰

 

加藤 将之(かとう・まさゆき)

声優。東京都出身。東京都出身。主な出演作に『デッドマン・ワンダーランド』千地清正役、『SDガンダム三國伝』張飛ガンダム役、『24 ファイナルシーズン』ファラド役(吹替え)などがある。

個人ブログ→http://ameblo.jp/actkatokichi-1972/

 

 

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「宇宙に行く」という夢をまっすぐに目指し続ける南波兄弟。彼らや彼らをとりまく人々の想いと絆を描く大ヒット漫画が『宇宙兄弟』(小山宙哉原作)だ。同作品の人気の秘訣は、登場人物の葛藤や感情の描写のリアルさにある。そこで、現在放映中のアニメ...もっと読む

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