時間がない時こそ手早く作れる魚料理!

第7回は「魚料理のキホン」です。おいしいお刺身の選び方から、魚の塩焼き、煮付けまで。ポイントは、できるだけ短時間で調理することです。好評発売中のスマート新書『おいしさの「仕組み」がわかる 料理のキホン』からお届けします。

陸上で生きる動物と違って、魚が生きている場所は、冷たい水の中。このことを意識することが魚料理を上達させるための第一歩です。

肉を常温で放置していてもすぐに腐ることはありませんが、魚はすぐに駄目になってしまいます。一体、なにが違うのでしょうか?

一般的な動物の体内の酵素や細菌は体温と同じくらいの温度でよく働き、5℃以下(冷蔵庫の中)ではかなり鈍くなります。

しかし、冷たい水の中で生きている魚の酵素や細菌は低温でも平気です。冷蔵庫の2℃〜6℃という温度は、海の中と同じ温度なので酵素は働き続けます。肉は冷蔵庫で保存すれば1週間以上、日持ちするのですが、魚を冷蔵庫に入れても数日が限度なのはそのため。魚の身を氷の温度で保存すればその反応を遅らせることができますが、止めることはできません。だから、魚は鮮度が重要なのです。

鮮度が落ちた魚は匂いが気になります。釣りをする方ならおわかりかと思いますが、じつは釣ったばかりの魚はまったく臭わず、草のような香りすらします。いわゆる魚臭さは、酵素が起こす化学反応によって生じるものだからです。魚が死んだあとも酵素反応は進み、魚の身にその産物(主にトリメチルアミンという有機化合物)が代謝されずにたまっていきます。これが生臭みの原因。

解決策は、酵素に分解されてしまうより早く食べることです。幸いなことに日本の流通は進化し、スーパーでも新鮮な魚が手に入るようになりました。それでも魚の匂いが気になるという場合には、いくつかの対策があります。

一つ目は冷水で表面を洗うことです。これは表面に増えた細菌とトリメチルアミンを物理的に洗い流す方法。ただし、トリメチルアミンは筋肉の中にも増えるので、表面を洗うだけでは除去しきれない場合もあります。

二つ目は調理前に牛乳につけるという手法。これはフランス料理で魚のムニエルをつくるときの定番の下処理で、牛乳に含まれるカゼインというタンパク質がトリメチルアミンをマスキング(覆い隠し)し、揮発を抑えます。ただし、消すのではなく抑えるだけなので、もちろん限度があります。

三つ目は酸で中和すること。トリメチルアミンはアルカリ性なので、酸性のものを加えれば中和することができます。ホタテ貝に匂いがある場合はレモン汁を加えた冷水で洗うとおいしく食べられますし、焼き魚にレモンやすだちが添えられているのも同様の理由です。

無重力状態の海の中で生きる魚は陸上の動物と違って、体重を支えるための筋肉が発達していません。だから、動物の肉はよほど丈夫な歯を持っていない限り生で食べられませんが、魚の肉はやわらかく、お刺身や寿司という形でおいしく食べることができます。

魚の骨が薄く軽いのも、重力がない水の中では身体を支える必要がないからです。肉と骨のあいだの結合組織もほとんどないので、肉を調理するよりも短時間で料理することができます。「鮭は馬の鼻息で火が通る」という言葉があるほど、火が通るのが早いことに注意しましょう。人間は40℃〜45℃くらいの熱いお風呂につかっても平気ですが、冷たい水の中で生きている魚のタンパク質はこの温度から固まりはじめるので、魚に火を通す場合にはちょっとだけ注意が必要です。

魚は低温で加熱すると身が崩れてしまいます。これは魚のタンパク質に含まれるタンパク質分解酵素によるもので、調理中の温度上昇にともない活性が強まるので、身がぐずぐずになってしまうのです。特にタンパク質分解酵素の活性が高いイワシやエビ、ニシンやサバ、タラなどはすばやく加熱して食卓に出しましょう。


鮮度が命の魚は、温度管理に注意せよ お刺身

まず、ご紹介する魚料理はお刺身です。現代ではスーパーでパック入りのお刺身が売っているので、魚を一からおろす必要はありません。とはいえ、買ってくるだけでも、気をつけるべきポイントがあります。

購入する際には鮮度のいい魚を選ぶこと。お刺身用のパックの底に組織液がたまっているものはNG。見た目がおいしそうで、角の立ったものを選びます。

次にカゴに入れるのは、買い物の最後にしてください。魚は常温でも鮮度が落ちていくので、常に冷やしておく必要があるからです。

もしも、スーパーに持ち帰れる氷があればもらいましょう。ビニール袋に詰めた氷をパックに当てて、移動中も低温を保つようにしてください。そして、家に帰ったらすぐに冷蔵庫のチルド室で保存。チルド室がない場合は冷蔵庫の一番下に置くようにします。冷気は下にたまるので、温度が安定しています。

あとは食べる直前にパックからお刺身をとりだし、きれいなお皿に盛り付けるだけ。わさびと醤油を添えて、食卓に出しましょう。お酒とあわせる時は醤油ではなく、塩とわさびで食べるのもいいでしょう。

料理とは自然の産物に人の手を介在させること。パックからお皿に移し替えるだけでも立派な料理です。


できるだけ短時間で調理することがポイント 魚の塩焼き

続いては刺身と並んで人気のメニューの塩焼き。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
おいしさの「仕組み」がわかる 料理のキホン

樋口直哉

すでに料理をしている人も、これからはじめる人も、知ればみるみる料理が上達し、楽しくなる「料理のキホン」をご紹介します。どのように調理するとおいしくつくれるのか、なぜそのように調理するのか、食材はどのように扱うべきなのか、調理法と食材の...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

momoirokoneco ここに書かれているコツがわかれば、魚の塩焼きや煮魚が上達しそう! https://t.co/y5foGXdCUZ 3ヶ月前 replyretweetfavorite