デザインができることは限られている
毎月開いている会「写真を読む夜」ではたいてい、写真家をゲストに招く。写真表現の奥深さに写真家の生の声を通して直接ふれてみたい、というのがこの場でのねらいだから。
けれど実際、写真表現が成立するうえでは、写真家以外の力も大きい。とくに、アート・ディレクターまたはグラフィック・デザイナーと呼ばれる人たちは、重要な役割を果たす。
写真集や雑誌の誌面を発表の舞台に選んだ場合、写真をどんなかたち、どんな順番で見せるかに、アート・ディレクターは深く関与する。その手腕によって、写真はより輝きもするし、色あせてしまうことだってある。
今回登場願った中島英樹は、国内外で高い世評を集めるアート・ディレクター。雑誌「CUT」のデザインやYMOのCDジャケットデザインなど写真を扱った仕事は多数だし、佐内正史、川内倫子、藤代冥砂、野口里佳といった人気写真家の写真集、さらには篠山紀信や森山大道といった大御所の写真集デザインにも、数えきれないほどたずさわっている。
画面上から野口里佳『この星』、川内倫子『AILA』、春木麻衣子『dazaifu』
写真家から寄せられる信頼も、驚くほど厚い。作品のテイストを問わず多くの写真家が、写真集作りに臨むとき、いっしょに組みたい相手として中島の名を挙げる。「中島さんに写真を見てもらいたい、いつか写真集を作ってもらいたい」との一念で上京したのだという話を、今はすでに名を成している写真家から、直接聞いたこともある。
「いやでも、やっぱり自分は写真を撮る人じゃないからね。仕事を通してかかわっているというに過ぎない。だから、写真に対してやれることなんて、すごく限られている」
本人はそう言って、いきなり謙遜から話をはじめる。
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