怯えは周りを不快にさせる
居場所が自分に合うのかどうかを見極めるためにも、自分の本音を言うべきだとお伝えしてきました。しかし、実際にはそれは非常に勇気がいることです。そもそも日本には、他の人を差し置いてでも自分の意見を率直に言うことが奨励される文化がありません。むしろ、人の言うことを静かに聞くことが美徳とされています。
また、人はそもそも人に嫌われることを恐れています。その結果、自分の言動が逸脱していないかが気になり、集団の中で取るべき行動を思いつかない状態が発生することで、居場所がないように感じるのです。実はそうやってビクビクし、周りに予防線を張ってしまう行為こそが、周りを不快にさせることがあるのです。
アメリカ人の家庭に行くと、「のどが渇いたり、お腹がすいた場合は、自分で冷蔵庫を開けて、好きなものを飲んで食べてね」と言われることが普通です。しかし、日本では他人の家の冷蔵庫を開けるという習慣がありません。ですから、あらかじめ説明を受けていても、「のど渇いたのだけど、何か飲み物ある?」と、怯えながらもどうしても聞いてしまうのです。
すると、「さっき自分で勝手にやってって、言ったよね」と、アメリカ人はちょっとイライラし出します。それにもかかわらず、自分たちの習慣やルールを無視することの不安から、「お腹すいたんだけど......。どうしたらいい?」と、再び自分たちのルールをビクビクしながらも押し付けてしまいます。
このように居心地の悪さを感じながらも自分のルールを押し付け続けていては、自分の居場所を見つけることができません。これは相手に気をつかっているのではなく、求められてもいないのに自分のために気をつかっていることに他なりません。結局、相手をイライラさせるだけでなく、自分も疲れてしまいます。
これと同じことは、あらゆるところで起きています。あなたが中堅社員として新人研修を担当し、研修の内容を理解したかを新人に聞くとします。本音を聞きたいのに、新人がやたらとビクビクして、わかっていないことにも、「わかりました」と言って話を合わせてきたとしたら、おそらくイライラするはずです。
このように、他人をイライラさせる怯えというのは、何らかの忖度や求められてしばいないルールに縛られているときに起きます。相手のためという視点がないだけでなく、それで自分も疲れるので誰も得をしないのです。
自分があげたいものをあげても無意味
では、ビクビクしないようにするためには何を意識したらよいかいうと、「自分があげたいものをあげても無意味」であることに気づくことです。
たとえば、欧米では日本人が驚いてしまうくらいにゲストに対して手厚いおもてなしをすることは珍しくありません。それほど親しくもない関係なのに、手間暇かけた料理を振る舞ってもらうなど、日本人の感覚では「申し訳ない」と思ってしまうレベルです。
しかし、日本人の中にはその手厚いおもてなしを受けることを遠慮して、「いつも悪いから」と距離を置いてしまう人がいます。すると、心からおもてなしをしたいと思っていた人が、「急に、あの子が家に遊びに来なくなった......」と、ショックを受けてしまいます。
アメリカ人から受けた「テイク」をどうにかして返そうと思っても、皿洗いや次回は日本食を振る舞うなど物理的にできることは限られます。その手厚いおもてなしに対して、同レベルのお返しが自分にはできないからといって距離を置くことは、仮に相手のための行動であったとしても、相手の親切を「重荷」と思うなど、独りよがりで自分勝手です。これは、相手をハッピーにさせる行動ではありません。
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