武田砂鉄
林修の「今でしょ!」を今さら問う
予備校講師として出演したCMでの「いつやるか? 今でしょ!」というセリフで流行語大賞を受賞、テレビタレントとしても見ない日はないほど活躍している林修。今回の「ワダアキ考」は、自身の発言から林修の「今」を考えます。
「いつやるか? 今じゃない!」
この連載を毎回読んでくださっている方の中には、私が「いつやるか? 今じゃない!」という決め台詞を何度か使っていることにお気づきいただいているかもしれないが、世の中が殺伐としたり不寛容になったりしている理由のひとつに、「いつやるか? 今でしょ!」と即答を求める社会があると考えているので、「いつやるか?」と聞かれても「今じゃない!」と先延ばしすべきだとあちこちで推奨しているのである。
林修が注目されるようになった東進ハイスクールのCMが放送され始めたのは2009年のことだから、林がお茶の間に浸透してから10年が経つことになる。彼が「今でしょ!」と強く言い切ったのは、もちろん予備校教師だったからで、もしも、今じゃなくて2年後でいいよ、という判断を下せば、塾に通おうとは思わないのだから当然のことである。日常生活で「で、それはいつ頃やろうと思っているわけ?」といった問いを投げかけることって時たまあるけれど、そう聞かれたほうが林修のアレだと早合点して、「今でしょ!」と切り返されたことがこの10年で5、6回はある。みなさんもあるだろう。林修にならないように気をつける、という地味なストレスが生じている。
「3つの思考をむき出しにする」とは
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この連載について
武田砂鉄
365日四六時中休むことなく流れ続けているテレビ。あまりにも日常に入り込みすぎて、さも当たり前のようになってしったテレビの世界。でも、ふとした瞬間に感じる違和感、「これって本当に当たり前なんだっけ?」。その違和感を問いただすのが今回ス...もっと読む
著者プロフィール
ライター。1982年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社で主に時事問題・ノンフィクション本の編集に携わり、2014年秋よりフリー。著書に『紋切型社会──言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、2015年、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)がある。2016年、第9回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞を受賞。「文學界」「Quick Japan」「SPA!」「VERY」「暮しの手帖」などで連載を持ち、インタヴュー・書籍構成なども手がける。
Twitter:@takedasatetsu