ヘンテコ関羽の入れ墨男—木下拓海(編集者)【第1回】

先日惜しまれながら最終回を迎えた、WEB編集者・中川淳一郎さんの連載「赤坂のカエル」が帰ってきました! 連載に登場した人物をゲストに迎え、ゲストの視点を交えながら当時を振り返ります。最初に登場するのは、連載最終回に登場したフリーライター/編集者の木下拓海さん。一目見てただものではないとわかるその風貌ですが、対談でもただごとではない話がたくさん飛び出しました。そんな木下さんと中川さんの対談を全4回でお送りします。

すべては2000年のOB訪問に持参した「明太子」から始まった

中川 おぉ! 木下、コノヤロウ! バカ、会いたかったぞっ!

対談開始早々、木下さんに一目散に走り寄って、抱きつく中川さん

木下 お久しぶりですー!

中川 この木下くんはオレが一番大好きな後輩なんですよ。オイッ! 大好きだぞっ、コノヤロウ!

木下 アハハ。本当に僕のこと大好きですよね、中川さん。

中川 連載(「赤坂のカエル」)でも書きましたけど、オレらの出会いは、すべて2000年に木下が明太子を持ってオレのところに博報堂のOB訪問に来たことなんです。今日はせっかくだから、ずっと前からお前に聞きたかったことを聞こうと思ってたんだよ!

木下 はい! なんですか?

中川 お前が電通辞めて仕事がなくなっちゃったとき、なんで2回しか会ったことないオレのところに電話してきたの?

木下 理由ですかぁ……。電通辞めた後、2年間遊び暮して、それにも飽きて、石原宏高さん(政治家、石原慎太郎氏の三男)の選挙事務所でバイトすることにしたんですよ。で、そこの手伝いをしていた人の中にたまたま一橋大学の先輩がいて「そういえば、お前が知ってる中川さんが博報堂を辞めてフリーになったらしいよ。選挙終わってヒマになるなら、仕事もらえるかもしれないから、連絡してみたら?」って言われたんですよ。

中川 え、そうだったの?

木下 そうなんです。もともと僕の中で中川さんに初めて会ったときのインパクトがものすごく強烈だったから、「あぁ、中川さんどうしてるかな?」って思ったのもありましたね。

中川 えっ! オレ、なんか変なことしたっけ?

木下 まず、外見が麻原彰晃みたいだったし……。

中川 あ、このデカイ白シャツが、オウムの修行着みたいだから?

— 中川さんの白シャツ+黒パンツのスタイルはずっと昔から、変わっていないんですね。

木下 出会ったときから、ずーっとこの格好ですよ。さらに、髪がいまよりずっと長くて胸の位置ぐらいまであって、メガネで……。しかも、昼間っから酒を飲んでるし、OB訪問中もずっと合コンの話しかしないし。

博報堂のCC局で、99種類の職種の人と99回合コンする!

— OB訪問で合コンの話ばかりされたら驚きますね(笑)。

中川 いやいや、当時合コンするのもオレの仕事だったんです! 1999年の年初に、連載にも出てきた博報堂の嶋浩一郎さんが「1999年だから99回99種の人と合コンをする」ことを目的とした「Gメン99」という企画を出したんですよ。当時、オレらがいたCC局っていうところは、いろんなメディアの人と会って、社会の動きを学んで、自分たちの企画に活かしていこうっていう部署だったんです。手っ取り早くいろんな職種の人に会うなら、合コンが一番じゃないですか? 嶋さんがこの企画を出すことで、「どんなに仕事が忙しくても合コンを優先させる」ことを上司に認めさせたんです。だから当時は、1週間に1~2回ぐらい合コンをやってましたね。
 職場のホワイトボードに普通は訪問先の企業名とか「赤坂」とか「フジテレビ」とか制作プロダクションの名前とかを書くんですが、オレたちは夕方になると皆「G」って言ってた。そして、刑事ドラマ『Gメン75』にかけて、「捜査行ってきます!」なんて部長に言って合コンに行ってたんです。さらに、皆刑事風のニックネームを持っていた。

— たとえば?

中川 パソコンが強い刑事(というか、社員)は「マイコン刑事(デカ)」で、東大の宇宙工学科出身の社員は「宇宙刑事」、嶋さんは確か「オタク刑事」だったかなぁ。オレは薄汚かったんで「野宿刑事」だった。

木下 そうそう、それで合コンの話ばっかりしてたんだ。

中川 嶋さんなんて、「電光G面ニュース」とかいうメルマガを発行して、みんなに合コンの成果報告を送ってましたからね。「今週会ったA社のCAとはこういう話をした」「某宗教系新聞のA嬢は最高に美人だった」なんて感じで。あんまり合コンばかりしてるから、こんがらがっちゃって、神保町で6対6の合コンをWブッキングしちゃったことがあって。男6人に女が12人だから、男が3人ずつ交代で店を行ったりきたりしてるんですよ。さすがにそのときは女の人たちにバレて「あんたたち、なにやってるの!」って怒られました(笑)。そのときのことを、嶋さんがメルマガで「今週は反省強化月間だった」って書いてたなぁ。

木下 店を行ったり来たりするなんて、まるで街コンみたいですね。

中川 でもね、ちゃんと成果はあったんですよ。そこで得た人脈を使って、モニター集めとかもすごく格安でできたし、情報収集もできたし、知り合いも増えた。だって、モニター調査って職種を限定した200人を調べようと調査会社に頼んだら600万円くらいかかるんです。だけど合コンで出会った人たちなら、1000円のクオカード渡して「周囲の同業者100人にこの調査して」なんていえばやってくれる。これならたった20万円ですよ! さすがに営業担当も「こりゃ安過ぎる……さすがにこのデータを通常の価格で売るのは悪徳過ぎる……」なんて困って激安価格で顧客に売ったくらいで。
 こんな仕事をしてたから、木下に最初に会ったときには、ずっと合コンの話ばっかりしてたんですね。

木下 それを聞いたら、もう「この会社に入りたい!」としか思わないですよね。だって、髪長くしてもいいし、昼からビールも飲んでいいし、仕事だって合コンに行ってればいいんだぁ……って。「いいなぁ、これなら僕もやれそうだなぁ」なんて思ってましたね。

中川 でもね、オレ、実は最初にOB訪問で木下に会えるのを、すっげー楽しみにしてたんだよ。

木下 え、なんでですか?

中川 木下に会う前に、一橋大学の同期でオレと一緒に博報堂に入社した市来健太郎くんから電話がかかってきたの。彼はいま「広告」の編集長をしている人なんですけど、そんな彼が「スカちゃん、スカちゃん!*1 今年の学生ですごくうさんくさくて面白い奴がいるぞ!」って言ってきたんです。入社してから彼がオレに電話してくることは一度もなかったんだけど、このとき初めてわざわざ電話までしてオレに伝えようとしたんですよ。そのくらいあいつもテンションが上がってたんだろうな。
*1スカちゃんは、中川さんの学生時代のリングネームだった「スカトロング山田」の略称

木下 そうか、最初に僕がお会いしたのは市来さんでしたからね。

中川 市来とオレはお前に博報堂に入って欲しいと本気で思ってたから、お前が博報堂を落ちたときはすごいがっかりしてたんだよ。だから、会社を辞めた木下から電話が来た時、「こいつか! 待ってたぞ!」と思ったわけ。

「赤坂のカエル」は、一切ウソ無しでお届けしました

— ちょっと話が前後しますが、木下さんは博報堂の入社試験は落ちたけれど、電通に入社するんですよね。その後、名古屋転勤が嫌で会社を11ヵ月で辞めてしまうという……。なんでそんなに名古屋が嫌だったんですか?

木下 いやぁ、だって名古屋なんて全然興味ないですもん! 土地勘もないし!

中川 だから、失踪すれば東京に帰れると本気で思っていたんだよね。「会社は優しいところだから」って勘違いしてた。

木下 そうなんですよ。当時はいろいろ電通の勤務体系とかが問題になっていたこともあって、会社側も懐柔してくるんじゃないかな~とか思っていたんですけど、読みが完全にはずれました(笑)。しかも、僕、自分と一緒に名古屋送りにされた同期たちに、「こんな名古屋の味噌樽のなかにお前らを入れておくのはもったいない! 会社をすぐにでも辞めたほうがいい!」ってオルグしてて。僕がそう言ったせいで、たしか同期が3人ぐらい辞めちゃいましたけど。

中川 その人たち、大変だったね。お前は会社を無断欠勤して、正月休みでタイに行っちゃうし。

木下 そうなんです。全然面倒みなかったですからね、彼らのこと。

中川 そりゃ、2ヵ月も会社に無断欠勤してたら、クビになるよ。それでタイに行ってパッポンの有名なゴーゴーバーに寝泊まりしてたんだよな。

木下 そうですね、もうお金もそんなになかったんで。「タダで泊めてくれるなら、ここにいればいっか」と思って。でもこの店、90年代のアメリカの「ニューズウィーク」で、「世界で一番ステキなバー」に選ばれたくらいの店なんです。そのころはこの店にめちゃくちゃ通いまくってたので、男の店員さんたちとかと仲良くなっちゃって、毎日遊んでました。

中川 あ、そういえば、連載の最終回にも書きましたけど、木下がタイで入れた太った関羽の刺青はもう見ましたか? ちょっと、木下、見せてあげて!

— おぉ……これが現地で彫ったという刺青……! 本当に彫っていたんですね!

木下 はい! 「赤坂のカエル」は、ウソは一切無しでお届けしてますから!

中川 ちなみに、木下が無職でヒモをやっていたころ、彼女に変な姿勢のオナニーを見られたせいで、彼女がいなくなっちゃった話も本当だもんね。

木下 当時、彼女とはセックスレスで、オナニーもマンネリ化してたんです。そこで、オナニーにクリエイティビティをもたせるなら、姿勢に凝るぐらいしかないじゃないですか。

「TVブロス」では、文章もイラストも、全部自分でやるのが当たり前

— その後木下さんは中川さんのススメもあって、『TVブロス』の編集部で編集者になるんですよね。もともと編集者になりたいと思っていたんですか?

木下 いや、全然。実は、中川さんが紹介してくれるまでは、「TVブロス」の存在すら知らなかったですからね。教えてもらってはじめて、「おぉ、こんな雑誌があるんだ!」と思ったくらいで。

中川 でも、木下は最初から原稿もうまかったんですよ。昔、オレと一緒に「ブロス」で「三国志特集」というのを作ったんです。その時木下が書いた「ジャーンジャーン! 『我名は関羽。字(あざな)は顔デカ!』と名乗る青年を東京都世田谷区の路上で発見! 右腕に関羽の刺青が入っているが……」って原稿がホント面白くて。

木下 自分自身のことを書いているんですよね。実際、僕は関羽の刺青は入ってますし、顔もデカいですから!

中川 ちなみに、この「ジャーンジャーン」っていうのは、横山光輝のマンガ『三国志』でよく登場する擬音なんですよね。

で、そのとき、一緒に「ブロス」の編集者をやっていたノンフィクションライターの朴順梨さんが、「木下、超原稿うまい! マジ嫉妬する!」って言ってたんだよなぁ。

木下 えぇ、そんな評価を受けてたなんて、初めて知りましたよ!

中川 あと、当時の「ブロス」は、実は結構フリー編集者がもらえるギャラが良かったよね。1ページの予算が5万円。特集1本6ページとすると、1本やれば30万円もらえるっていう計算。まぁ、そこからカメラ費とかイラスト代とかも引かれていくんですが。デザインはさすがに自分ではできないけど、原稿はもちろん、イラストとかはよく自分で描いてしましたね。

木下 いまでも、予算がないときはイラストも自分で描いてますよ! だって、別に僕らが描いても読者から別にクレームもこないですし……。

中川 でもさぁ、いま思ってみても、あんなに自由にやらせてくれる雑誌ってなかなかないよね。

— 木下さんは、いま「ブロス」では、特集記事の編集者として関わることが多いんですか?

木下 特集もやりますし、あと連載の編集もいくつか担当しています。中川さんが担当してたラーメンズ・片桐仁さんの「おしり(おしえて 何故ならしりたがりだから)」の連載も引き継いでやってました。今はまた次の後輩に引き継ぎましたが。

中川 「おしり」は、片桐さんがいま気になっているいろいろな工場や会社へ社会科見学しにいく、という連載なんです。2003年の春に開始して、もう10年以上続いてますね。

木下 いま思うと、工場マニアの先駆けみたいなことをやってましたね。

中川 そういえば、木下が初めて「おしり」の担当編集として記事を作ったとき、オレも取材について行ったんだよな。

木下 そうですね。みんなで、中国の大連のコールセンターに行きましたね。これがすごいおもしろかったんですよ……。いや、とんでもない旅行でした!

— ええ、なんですか! めちゃくちゃ気になります!

(次回は8月23日更新予定)

構成:藤村はるな

 
木下拓海(きのした・たくみ)
TVブロス編集部員をやりつつ、歌舞伎町のカレー屋でも深夜バイト。フリーランスの枠を超え、フリーターとしても活躍中。「満員のJRに乗ってる奴らの方がどうかしてるぜ!」とカレー屋に来たイギリス人客に励まされる。

 

ケイクス

この連載について

赤坂のカエル」番外編・カエルの青春

中川淳一郎

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oguraryuji ブロスの片桐仁さんの連載は、中川淳一郎さんが初代担当編集として立ち上げ、僕を拾って育ててくれた木下拓海さんが二代目、そしていま僕が三代目として担当。そのへんの話はこちらで読めます→ https://t.co/I5kbCAJtXp https://t.co/5oLeDKQEI5 10ヶ月前 replyretweetfavorite

unkotaberuno @goodmoon1968 大学キャンパス内に警察は無断で入れない、という事情を理解したうえでの知能犯だと思われます。キャンパス出たら出してないでしょう @oikekarasuma 殿、貴殿の予想通り、Kとはこいつですw → https://t.co/YgPVlldLeq 1年以上前 replyretweetfavorite

johnhirovolta 【フェスボルタ2014迎春】こんな刺青入れてる方も来場します!https://t.co/cLt0vmeZKK 4年以上前 replyretweetfavorite

abm この対談、ものすごくぶっ飛んでて面白いわ。 >ラーメンズ片桐仁さんの連載初担当で、奇跡の大連旅行へ!——木下拓海(編集者)【第2回】|中川淳一郎| 4年以上前 replyretweetfavorite