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わたしには夢がある。
レズバーのジャズバーのババアになりたい。
レズバーのジャズバーのババアになりたい。
酒焼けした声で酒屋と渡り合いたい。
白くなった髪をシニヨンにまとめたい。
ゴツゴツの指輪。
パツパツの革パン。
ヨコスカの海を背にデッキシューズ履いてデッキブラシかけたい。
わたしは、レズバーのジャズバーのババアになりたい。
そう、レズバーのジャズバーのババアになりたい。
お抱えのミュージシャンたちを“お嬢ども”と呼びたい。
おばあちゃんは子どもがいないから私たちのことを娘がわりに可愛がってくれるのよ〜、とかなんとかシケたこと言われたくないので無愛想に可愛がりたい。
ドラマーお雪!とか、ペッターおマリ!とか、だいたいのミュージシャンを「夜桜お七」みたいに呼びたい。“お嬢ども”には好きにやって欲しいけど、お客さんあってのお店なので、そこはやっぱり、お客さんの様子をようく見て、たまにおせっかいババアリクエストを入れたい。
「おいッ、3卓さんのおふたり、いい感じだよ! お嬢ども、メロウなチューンで揺らしてやんな!」
「いいことあったのかい? 祝おうじゃないか! お嬢ども、ド派手に一発かましてやんな!」
「なァんだい、アキよぉ、アンタ、まぁた尽くし尽くしてフラれるパターンかい。うちの酒はヤケ酒にはもったいない一級品だよ。大事に飲まねえなら出さないよ。大事にしなよ、酒も自分も。アンタ飲む前によ、出すもんハートにたまってんだろ? な、泣きたいだけ泣きなよ。悲しみと水は似てる。溜めれば淀む、流せばすうっと透き通る。涙が洗い流してくれるよ。お嬢ども、あれをやんな……”Cry me a river”」
そんな、レズバーのジャズバーのババアになりたい。
18歳の時だったと思う。
わたしもうおばさんだから、と、同い年の子が言うのを聞いたのは。
まわりから女子高生と呼ばれて偶像化される、いわゆる“JKブランド”を失うことについて、自嘲を込めて言ったのだ。18歳の女の子が。
22歳の時でもあった。
わたしもうおばさんだから、と、同い年の子が言うのを聞いたのは。
アイドル活動をやってきたけど、どんどん年下の子が入ってきてしまう、わたしは“劣化”して“賞味期限切れ”なんだって、自分のことを食べ物みたいに言ったのだ。22歳の、ひとりの人間が。
10年経って、30を越えた。
わたしたちもうおばさんだよね、と、かつての同級生が言うのを聞いた。