3「男らしさ」とは何か?
五種類の「男らしさ」
では、「男らしさ」とは何だったのか?
これまた多義的で、漠然とした概念のように感じられ、日本語でも「益荒男ぶり」だとか、「武士道」だとか、歴史的に関連性のある言葉が幾つか思い浮かぶが、ヨーロッパの歴史の中は、古代ギリシア以来、脈々と受け継がれてきた強固な概念だった。
歴史学者アラン・コルバンが執筆・編集した、翻訳本にして三巻からなる浩瀚な『男らしさの歴史』は、その間の動向を微に入り細を穿って詳述しているが、とても網羅的に紹介することは出来ないので、特にその興味深い点に注目してみよう。
古代ギリシアでは、「男らしさ」という概念に相当するのは、「アンドレイア」というギリシア語だった。この言葉は、そもそも戦場に於ける身体的な勇猛果敢さを意味していたが、更に五種類ほどの分類が可能なようである。
①「勇敢さ」のように、戦場において発揮されるもの
②ポリスの掟が神々の掟と相反する時、ポリスに抗い、神々に従う「道徳的勇気」
③男性のみに許された政治的な「弁論術」の巧みさ
④性的欲望を相手に受け容れさせる能力
⑤自分の「オイコス」(家、またはその構成員である家族、奴隷)の支配
教育によって理想化されていたこれらは、古代モデルとして、その後、「男らしさ」が減退してきたと嘆かれる時代に、何度となく振り返られた。
ラテン語では男性をvirと言い(女性はvira)、「男らしさ」はvirīlitāsである(これには端的に男性器という意味もある)。
フランス語のvirilitéや英語のvirilityの語源はこれで、virīlitāsは、歴史的にヨーロッパ中に広まってゆくこととなる。
やや強引だが、今日の私たちの価値観で、敢えてこの五つを解釈するなら、凡そ以下のようになるだろう。
ⅰ 死を恐れず、敵と戦う勇気
ⅱ 正義のために、体制に背く反抗
ⅲ 説得力のある言葉を発する力
ⅳ セックス・アピール
ⅴ 家族を守ること
私たちが思い描く「男らしさ」とも大方、合致しており、また、その是非も含めて、「カッコいい」を考える上でも、非常に参考になる分類ではあるまいか。
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