第9章それは「男の美学」なのか?|3「男らしさ」とは何か?

virīlitāsに、男性器の意味があったように、むしろ「オスらしさ」とでも言うべき④セックス・アピールの変遷は、「男らしさ」の歴史の中でも最も滑稽で情けなく、批判されるべき点も多いーー。平野啓一郎が、小説を除いて、ここ十年間で最も書きたかった『「カッコいい」とは何か』。7月16日発売の新書を全編連載。 「カッコいい」を考えることは、「いかに生きるべきか」を考えることだ。(平日毎日更新)


3「男らしさ」とは何か?


五種類の「男らしさ」

 では、「男らしさ」とは何だったのか?

 これまた多義的で、漠然とした概念のように感じられ、日本語でも「益荒男ぶり」だとか、「武士道」だとか、歴史的に関連性のある言葉が幾つか思い浮かぶが、ヨーロッパの歴史の中は、古代ギリシア以来、脈々と受け継がれてきた強固な概念だった。

 歴史学者アラン・コルバンが執筆・編集した、翻訳本にして三巻からなる浩瀚な『男らしさの歴史』は、その間の動向を微に入り細を穿って詳述しているが、とても網羅的に紹介することは出来ないので、特にその興味深い点に注目してみよう。

 古代ギリシアでは、「男らしさ」という概念に相当するのは、「アンドレイア」というギリシア語だった。この言葉は、そもそも戦場に於ける身体的な勇猛果敢さを意味していたが、更に五種類ほどの分類が可能なようである。

 ①「勇敢さ」のように、戦場において発揮されるもの

 ②ポリスの掟が神々の掟と相反する時、ポリスに抗い、神々に従う「道徳的勇気」

 ③男性のみに許された政治的な「弁論術」の巧みさ

 ④性的欲望を相手に受け容れさせる能力

 ⑤自分の「オイコス」(家、またはその構成員である家族、奴隷)の支配

 教育によって理想化されていたこれらは、古代モデルとして、その後、「男らしさ」が減退してきたと嘆かれる時代に、何度となく振り返られた。

 ラテン語では男性をvirと言い(女性はvira)、「男らしさ」はvirīlitāsである(これには端的に男性器という意味もある)。

 フランス語のvirilitéや英語のvirilityの語源はこれで、virīlitāsは、歴史的にヨーロッパ中に広まってゆくこととなる。

 やや強引だが、今日の私たちの価値観で、敢えてこの五つを解釈するなら、凡そ以下のようになるだろう。

 ⅰ 死を恐れず、敵と戦う勇気

 ⅱ 正義のために、体制に背く反抗

 ⅲ 説得力のある言葉を発する力

 ⅳ セックス・アピール

 ⅴ 家族を守ること

 私たちが思い描く「男らしさ」とも大方、合致しており、また、その是非も含めて、「カッコいい」を考える上でも、非常に参考になる分類ではあるまいか。

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カッコいい」とは何か

平野啓一郎

『マチネの終わりに』『ある男』を発表してきた平野啓一郎が、小説を除いて、ここ十年間で最も書きたかった『「カッコいい」とは何か』。7月16日発売の新書を全編連載。 「カッコいい」を考えることは「いかに生きるべきか」を考えることだ。(平日...もっと読む

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yunyunyuan 男性性の価値観の変遷。仰天の歴史…!!え、え、え〜?! 2ヶ月前 replyretweetfavorite