第9章それは「男の美学」なのか?|2女性誌と「カッコいい」

ヨーロッパのモード誌のようなキメキメの「カッコいい」世界ではなく、むしろ、生き様にフォーカスされているが、ある意味ではこれも、アナ・ウィンター以降の世界的な流れの一つとして見るべきかもしれないーー。平野啓一郎が、小説を除いて、ここ十年間で最も書きたかった『「カッコいい」とは何か』。7月16日発売の新書を全編連載。 「カッコいい」を考えることは、「いかに生きるべきか」を考えることだ。(平日毎日更新)


2 女性誌と「カッコいい」


『Oggi』と『Domani』

 一九九〇年代以降、女性に「カッコいい」という言葉が用いられるようになった経緯の一つとして、ポップスの中にダンスチューンが増え、一般化していった、ということもあるだろう。安室奈美恵やMAX、TRF、SPEEDなどが活躍した九〇年代は、女性の歌手やグループの切れ味鋭いダンスに、若いファンたちが熱狂した時代だったが、彼女たちは決して「かわいい」だけでなく、「カッコいい」存在でもあった。

 八六年には、男女雇用機会均等法が施行され、職場に於ける男女差別が法的に禁止されることとなり、更に九七年に一部改正されて、女性が管理職に就く道が開かれるようになると、男性社員に「かわいい」などと言われるOLとは違った、「カッコいい」理想像が必要とされるようになる。ダンスに長けた歌手たちが、「しびれる」ような非日常的な理想像であったのに対して、働く女性たちには、むしろ「恰好が良い」の意味に近い、職場での日常的なあるべき姿が一から模索されねばならなかった。

 因みに、「カッコいい」という言葉が『現代用語の基礎知識』に登場し、市民権を得たのも、実は非常に遅く、この時期だった。

 小学館の二十代向けの女性誌『Oggi』(一九九一年創刊)は、「コンサバ」系の代表的な雑誌だが、「働く女性のためのファッション誌」をコンセプトに、一貫して、自立した「カッコいい」キャリア女性像をテーマとしている。

 対象年齢は、二十代後半から三十代前半で、三十五歳前後をターゲットとした同社の上位誌『Domani』(一九九七年創刊)も同様だった(因みに、òggiはイタリア語で「今日」、domaniは「明日」という意味である)。

 長く『Domani』編集部に在籍し、二〇一六年から一八年までは編集長を務めた福田葉子は、次のように語る。

「両誌とも、『日本のカッコいいキャリア女性、そのカッコいいおしゃれと生き方』が大きなコンセプトで、それは、読者にもクライアントにも周知されていました。

『Domani』(二〇〇四年二月号)では、『自分の脚で立つ』という特集を組みましたが、この言葉が象徴するように、〝仕事を持ち、自活している〟女性の『カッコよさ』がテーマでした。

 ただ、『カッコいい』のは大前提として常にベースにありつつ、特集ではそれを、知的、美人、辛口、キリッと、凜と、りりしく、ハンサム、クールといった具体的な言葉で説明するようにしていました。

 その中で、女らしさを足す、少し華やかに、地味にならないように、おしゃれに、センスよく、というニュアンスを工夫して、今の『カッコいい』って何だろう? どうしたら、自分らしく『カッコいい』女性になれるだろう?と試行錯誤しました。

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カッコいい」とは何か

平野啓一郎

『マチネの終わりに』『ある男』を発表してきた平野啓一郎が、小説を除いて、ここ十年間で最も書きたかった『「カッコいい」とは何か』。7月16日発売の新書を全編連載。 「カッコいい」を考えることは「いかに生きるべきか」を考えることだ。(平日...もっと読む

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