書籍化しました!
“よむ”お酒(イースト・プレス)
本連載『パリッコ、スズキナオののんだ? のんだ!』が本になりました。
その名も『“よむ”お酒』。
好評発売中!
ひとり飲みや、晩酌のお伴にぜひどうぞ
寄せては返す波のよう
これを書いている今、二日酔いである。昨夜、知人に呼ばれていった催しの会場で缶ビールが気前よく振る舞われ、すすめてもらうままに飲んだ。慣れない場所で少し緊張していたのもあって飲むペースが早くなってしまい、酔うにつれてさらにそれが加速していき、「よしもう一軒行くぞ!」の勢いにつながって……という典型的なパターンであった。
これはおそらく誰しもそうだと思うのだが、何かを食べたり飲んだりしたから、とか、何かをしたぁら二日酔いがケロッと解消された! ということは残念ながらない。もちろん、水分をたっぷり取るとか、熱いシャワーを浴びるとか、少しでも二日酔いからの回復を早める手立てはあるかもしれないが、それで一気に気分爽快になるなどということはなく、ただひたすら耐えるしかない。
私はいつも(というか今も)二日酔いは寄せては返す波のようだと思う。横になっていて、ちょっと楽になったと思う。「よし、ようやく二日酔いから抜けたようだ」と起きあがってパソコンに向かってメールをチェックし出したりすると、また不調の波が戻ってくる。一進一退を繰り返しながら、じわじわと、少しずつ快方に向かっていく。快方といっても、長い時間かけてようやく「いつもよりちょっと元気ない」ぐらいのところに戻れるだけ。本当に辛い。
汁しか飲めない
今の私はフリーの仕事をしていて時間にある程度自由がきくため、不調であれば回復するまで寝ているということもできるけど、数年前まで、会社勤めをしていた頃はハードだった。もちろん、「明日も仕事だ」という思いがどこかでストッパーになり、そこまで激しく飲まない、ということもあったけど、恐ろしいのは同僚と飲んだ場合だ。なんせ同僚、お互い明日も朝から同じ職場にいなくてはならない。つまり運命共同体。その相手が「明日のことはもうどうでもいい!タクシーで帰って少し寝れば大丈夫だろ!」みたいな勢いで猛然と飲み出した場合、私も「そ、そうだよな!」と後戻りのきかない険しい道に飛び出すことになる。
そうやって深夜まで飲み続け、ロクに寝ることもできずに出社するとひどい。男性トイレにあった二つの個室トイレに私か同僚か、あるいは二人の両方かがずっと籠っている状態。ようやく自席に戻ってもまったく仕事にならない。宙を見つめたままただそこに存在しているだけの状態。昼になっても気分は悪いままだったが「何かお腹に入れないとだめだ」と、同僚がカップラーメンを無理矢理食べようとして、「無理だ……汁しか飲めない」とうなだれていた場面が記憶に残っている。
先日、父親と一緒に、父の生まれ故郷である山形に行ってきた。以前書いた通り、山形の親戚たちはみんな酒好きで、そして酒が強い。恒例の大宴会となり、そうなると限界まで飲まずにいられない性分の父はたらふく酒を飲む。翌朝、体調不良によって一気に老け込んだように見えた父が「アルコールが一発で体から消えるような薬ってできないのかね……」とつぶやいた。「そしたら、ノーベル賞をあげたいよ」とも言っていた。悲しいことだが、父が生きてるうちにそんな都合のいいものが生み出されることはないだろう。
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