産んでも、産まなくても、女性の人生はそれぞれにそれぞれの価値がある

ついに出産の日を迎えた徳瑠里香さん。さまざな偶然の重なりから「産む」にたどり着いた徳さんは、人生の選択ついて考えます。『それでも、母になる』(ポプラ社)をcakesで特別連載。

3178gの女の子、誕生!

 そして、迎えた出産当日。ブルーのオペ着を纏った先生たちに囲まれ、手術台の上に上がり、眩まぶしいくらいの白いライトに全身を照らされる。裸になって背中を丸め、背骨の間に腰椎麻酔と硬膜外麻酔という2本の局所麻酔を打つ。麻酔の効き目が確認できたところで手術がスタート。

 意識はあるのでお腹を触られている感覚はあるし、先生たちの声もメスが重なる音も聞こえる。麻酔科の先生が頭上で実況中継をしてくれたこともあり、自分のお腹が切られた瞬間もわかった。

 手術開始から35分。先生の「赤ちゃん出るよー」という掛け声とともに、「あぎゃーあぎゃーあぎゃー」という泣き声が響き渡った。

「おめでとうございます! 元気な女の子が生まれました!」

 我が子の泣き声とその言葉を聞いた瞬間、緊張の糸が切れ全身から力が抜け、ほっとして一筋、二筋、涙が頬を伝った。麻酔のせいか意識が少し遠のいてきたけれど、酸素マスクで深く呼吸をしながら、処置をしている間も、力強く泣き叫ぶ我が子の声に必死に耳を澄ませた。数分後、真っ赤でしわくちゃになって泣く我が子が頭の横に。その姿を自分の目で見て肌で触れた瞬間、嬉しくて声をあげて笑った。無事に生まれてきてくれて本当によかった。

 赤ちゃんはそのまま先に病室へ。私は開いた子宮とお腹を縫い合わせる手術が続いた。麻酔の副作用で気持ち悪さと若干の頭痛があり、意識が朦朧としたまま手術は終了。自分ではどうにもならない身体を先生たちに抱きかかえられてベッドへ移動し、病室へ運ばれた。

 我が子と夫が待つ病室へ戻ってからはアドレナリンが出ているのか妙に元気だった。隣には生まれたばかりの赤くむくんだ驚くほど小さな赤ちゃんがいる。3178gの女の子。さっきまでお腹のなかにいたなんて。すやすや寝息を立てたり、目を閉じたまま「ふひゃーふひゃー」とか細く泣いたり。仕事終わりの父と母、妹たちも駆けつけ、家族みんなでその一挙手一投足に沸いた。不思議なくらい温かくて平和な時が流れた。

 私は今回、自然分娩も望めたけれど、出産の直前まで逆子だったこともあり、あらゆるリスクを回避するために「選択的帝王切開」という方法で我が子を産んだ。

 お腹を開く前は、帝王切開に値する明確な理由はなかったのだけれど、実際にお腹を開いてみたら、私の子宮の外側の筋肉は3㎜ほどで非常に薄く(通常は1~2㎝ほどらしい)、そこに胎盤が癒着していた。珍しいケースで、お腹を開くまでわからなかったとのこと。もし自然分娩を選んでいたら、陣痛が来た時点で、子宮破裂を起こしていた可能性があったという。帝王切開を選んで母子ともに命拾いをした。

 自然分娩が推奨される日本にはいまだに「お腹を痛めて産んだ子だからかわいい」という都市伝説があるようだけど、帝王切開だって十分お腹を痛めているし、我が子はちゃんとかわいい。それは無痛分娩も同じだと思う。産む前は産み方もある程度大事だとは思っていたけれど、産んでしまえばどうってことはない。母子が安全であることがなによりだ。避けられるリスクは避けたほうがいいと私は身をもって実感した。

 ひりひりと痛む、お腹というより股に刻まれた15㎝ほどの傷跡。これは命がけで我が子を産んだ母の勲章だと思う。

 とは言っても、実際に命が芽吹いても育たないこともあるし、どれだけリスクを避けても、命をかけても、生まれてくることができない命もある。誰のせいでも、誰の功績でもなく、本当に一つひとつのお産、一人ひとりの命の誕生は、偶然とも言える"奇跡"の重なりとしか言いようがない。

産んでも、産まなくても
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それでも、母になる

徳瑠里香

産まなければ母ではないのか、血がつながらなければ家族ではないのかーー。母になること、家庭を持つことに葛藤を抱えていた著者が、奇跡的な妊娠をきっかけに、母子の関係、そして、さまざまな境遇の女性たちを取材する中で考えた家族についてまとめた...もっと読む

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