カメラマンへの道のりは自転車旅行から
加藤貞顕(以下、加藤) 今日はよろしくお願いいたします。青山さんにはcakesでもオープン当初からずっと『彼女写真』シリーズを連載していただいています。毎回ほんとうにかわいいですよ。
青山裕企(以下、青山) ありがとうございます(笑)。
加藤 吉高由里子さんの写真集『UWAKI』(マガジンハウス)や指原莉乃さんのフォトブック『さしこ』(講談社)を見てもよくわかりますが、青山さんの写真って、女の子のかわいさを最大限に引き出していらっしゃいますよね。だけど、もうひとつ、普通の人々の魅力を引き出すことにも力を入れていらっしゃると感じます。その代表作が普通のサラリーマンがジャンプしている写真の作品集である「ソラリーマン」です。たしか、青山さんが最初に出した写真集は女の子の写真ではなくて、「ソラリーマン」のほうですよね(『ソラリーマン―働くって何なんだ?!』)。
青山 はい、そもそもジャンプ写真自体、僕がカメラを始めたころから一貫して撮り続けてきたテーマです。
加藤 写真を始めたのは比較的遅かったんでしたよね?
青山 大学1年生(20歳)の時ですね。当時はとにかく自分に自信がなくて、人に誇れるようなものが何ひとつありませんでした。
加藤 そうだったんですか。僕は写真家になってから生き生きと活躍されている青山さんの姿しか拝見していないので、その姿が想像できません。
青山 いや、本当に悩んでいましたよ。入学してすぐに大学に行かなくなっちゃいましたし。要は引きこもりです(笑)。
加藤 えっ、そんなに早い段階で。
青山 大学で心理学を学べば自分を変えられるのかもしれないと思って心理学科に入ったんですが、実際に勉強を始めてみたらまったくそんなことなくて。これから一体どうすればいいのか途方に暮れてしまったんです。
加藤 期待をかけて受験勉強してきたぶん、落胆も大きかったと。
青山 そうですね。当時は心理学の代わりになるものを探し、毎日のように本屋に通って本を読みあさっていました。そのときに「自転車旅行をはじめよう」というタイトルの本を見つけて、「コレだ!」と思って日本縦断の旅をすることにしました。
加藤 引きこもりから日本一周とは、すごく極端ですね(笑) 。
青山 とにかく自分を変えてくれるものを探していたんでしょうね。それで旅先で記録のために写真を撮りはじめました。それが写真を始めたきっかけなんです。
加藤 最初から、カメラを始めようと思い立ったわけじゃないんですね。でも、ひとりで旅行をしながら写真を撮ると風景写真が多くなってしまうと思うんですけど、そこからなぜジャンプ写真に?
青山 旅を始めたばかりのころは風景写真を撮っていたんですよ。でも、ぜんぜん気持ちが伝わる写真が撮れない。撮った写真を見ても、自分が体験している高揚感みたいなものが表れていなくて、つまらなかったんです。それで、ふと、セルフタイマーで自分がジャンプしているところを撮ってみたら、なんだかおもしろくて笑ってしまって。
加藤 自分の写真を見て笑うというのは、めずらしい体験ですよね。
青山 そうなんです。表情も跳び方も全部がぎこちない写真だったんですけど、それが逆に新鮮だったというか。その体験自体がすごく貴重でした。それでジャンプ写真にどっぷりとハマってしまいました。旅から帰ってからは、周りの友達に片っ端からジャンプしてもらって撮影していましたね。
リア充修行の学生時代
加藤 日本一周から戻ってきてから、学生生活が一変した感じがしますね。
青山 そうですね。その時点ではプロになりたいとかも思っていなくて、写真を撮るのがただ楽しくて続けていただけです。僕は昔から人見知りで人と向き合うのが苦手だったんですけど、ジャンプ写真を撮るうちに、カメラを使うと人とコミュニケーションが取れるということに気づいたんですよね。結局はその楽しさが、いま自分がカメラマンになっている理由なんですけど。
加藤 カメラを通じて人と向き合えるようになれたと。
青山 コミュニケーションに対するおそれが徐々になくなりましたね。大学でも、学園祭実行委員に入ったりして。
加藤 それはまた、引きこもりから一転して、ずいぶんとコミュニケーションスキルが要求されそうなところに入りましたね。
青山 せっかく人とコミュニケーションできるようになってきたんだから、いっそリア充になれるよう修行してみようと思って。
加藤 たしかに学祭委員ってリア充な人たちが多そうですよね。その中に混じってみて大変じゃなかったですか?
青山 それが、僕の精神が崩壊するギリギリの活動ばかりでした(笑)。車で犬吠埼まで行って海に飛び込んだりとか……(遠い目)。
加藤 おおー。まさに修行ですね……。
青山 でも、そのおかげで多少はいろいろマシになったかなと(笑)。
プロになることを決意した「グアテマラの朝」
加藤 こうしてお話を聞いていると、青山さんってすごく行動力がありますよね。引きこもっていたというのが意外なくらいです。
青山 僕は、「崖っぷち」感が高まったときに行動するんですよ。日本縦断のときは「自転車で旅に出なければ、僕の人生は終わり!」くらいに追い込まれたからこそ行動したし、学祭委員になったときも、「これぐらい出来なければ、社会で生きてゆけない!」というところまで自分を追い込んだわけです。カメラマンになるということを最終的に決断できたのも、「崖っぷち」感のおかげでしたし。
加藤 カメラマンになるのを決意したのはいつだったんでしょう。
青山 世界を二周している最中です。
加藤 え、世界二周したんですか!?
青山 正確に言うと、一周を2回ですね。1周目は人見知りを克服しようと思って行ったんですが、2周目は自分の人生の行く道を決定するために行ったんです。
加藤 やっぱり行動力がすごい(笑)。でもたしかに、プロカメラマンになる決意ってそう簡単にはできませんよね。
青山 大変でした。自分の人生を旅先で決めなければいけないというプレッシャーで、旅自体を全く楽しめなくなっちゃいましたね。生まれて初めて不眠症にもなって、写真を撮る気も全く起きなくて。
加藤 旅の途中で好きな写真が撮れなくなるスランプに……それは辛いですねえ。
青山 ええ、本当に。ようやく見つけた自分らしさを発揮できる写真すら撮れなくなって辛かったです。どうしよう、どうしようって悩んでいて、それがパンッとハジけたのがグアテマラだったんです。
加藤 いったい何があったんですか?
青山 別に何か事件があったわけではないんです。グアテマラのホテルで朝シャンしてたら、シャワールームの小窓から光が差し込んできて。その瞬間なぜかわからないけど、いきなり「写真家として生きてゆこう!」と覚悟が決まりました。
加藤 へええ、そんなことが。なんだか神秘的な体験ですね。
青山 そうとも言えるんですけど、単純に写真が撮れないという状況に追い込まれたことで、逆に「本当は写真を撮り続けたい」気持ちが高まって、小窓からの光を浴びたときに、たまたま頂点に達したんじゃないかと思います。好きなものを仕事にしてもいいものか悩んでいたのですが、とにかくやればいいじゃないかと、シンプルになれました。その後はもう速攻で帰って、写真の専門学校に通い出しました。
ジャンプ写真だけで食っていく?
加藤 卒業後は誰かに弟子入りしたんですか?
青山 いえ。誰にも弟子入りせず、すぐにフリーランスのカメラマンになりました。けど、その時点では仕事は全然なかったですね。カメラの仕事で補えない生活費を、NHKの集金のアルバイトで稼いでいました。
加藤 え、写真とは全然関係ない仕事じゃないですか。
青山 当時はジャンプ写真だけで食ってやろうぐらいの気持ちだったので、アルバイトでだとしても、ジャンプ以外の写真は撮りたくなかったんですよ。
加藤 ということは、職業カメラマンを始めた時点でもまだジャンプ写真だけを撮っていらしたんですね。それだけだと、出版社とかに売り込み営業するのが大変だったんじゃないですか?
青山 僕はいわゆる、出版社に作品を持ち込みするような営業活動をやっていなかったんです。SNSのオフ会を通じて、仕事につなげていたので。
加藤 え、オフ会ですか。どういう流れで仕事を引き受けていらしたのか、気になります。
青山 「フリーランスフォトグラファー」を名乗るとけっこう驚いてもらえて、「ジャンプしてる写真を名刺に使いたい」とか「結婚式の写真撮って」みたいな依頼がちらほら来るんですよ。役者さんやミュージシャンの方の宣材写真もやりました。
加藤 ああ、なるほど。大学で鍛えたコミュニケーション力がそこで発揮されたわけですね。
青山 とはいえ、ジャンプ写真だけでカメラマンになろうというのは、人生ハードモードすぎました(笑)。
加藤 でも、結果的にジャンプ写真という一つのジャンルができたのは、そういう青山さんの粘り強さがあったからだと思えます。
青山 そうかもしれませんね。まあ、別に世間からの評価はあまり気にしていなかったので、辛いと思ったこともないんですよね。何と言っても、写真は楽しいですから。
加藤 周りの友達はみんなサラリーマンとして働きはじめたりしているわけですよね。自分の状況と比較して、不安を感じたりしそうですが。
青山 うーん、同じカメラマンをしている同世代の人は意識していましたけど、他の仕事をしている友達に対して焦るということはなかったです。むしろ、ジャンプ写真を撮ると友達が楽しそうにしてくれるし、そのことが自分にとって一番の評価だと思っていましたね。そのおかげで続けることができたと思ってます。
加藤 自分がいいと思うものの良さを確信して続けられたから、今の青山さんがあるんですね。
青山 自分の才能に対する自信は全くないんですけどね。それは今もないです。僕は本当にただの凡人ですよ。でも、そう思っているからこそ撮れる写真もあるのかなって思うんです。凡人が撮るからこそ、一般の人に響く部分があるんじゃないかなと考えています。
(後編へ続く)