「もっともらしさ」に乗るという軽率
【登場人物】
清田隆之
桃山商事・代表
1980年生まれの文筆業
森田雄飛
桃山商事・専務
同じく1980年生まれの会社員
ワッコ
桃山商事・係長
1987年生まれの会社員
清田 桃山商事の恋バナ連載、今月は「恋愛と軽率」について語っています。
森田 前回は、「ファーストカノジョの旅行先からセカンドカノジョに写メを送る」という男性の軽率行動エピソードを紹介しました。
ワッコ その話を聞いていて思い出したんですけど、わたしのカレシが浮気してた事件があったじゃないですか。
清田 我々の新刊『モテとか愛され以外の恋愛のすべて』に出てきた、浮気がバレてフルチン土下座したという彼氏の話だね。
森田 フルチン土下座(笑)。
ワッコ その彼が、浮気相手と土日で一泊のスキー旅行に行ったことがあったんです。わたしに対しては「友達と行く」と嘘をついて。
森田 大胆な行動だね……。ワッコはそれが浮気旅行だって気づいてたの?
ワッコ はい。当時のわたしは、あらゆる手を尽くして彼の行動を把握してたので。あと、前回出てきたホテルのエピソードと少し似ているんですが、宿泊場所が「部屋に露天風呂が付いてる旅館」だったんですよ。どう見てもカップルが泊まるやつですよね。
清田 リサーチ能力がハンパない(笑)。
ワッコ それで、彼が旅行に出かけた日の深夜1時半に、「スキーで転んでいつもかけてるメガネを壊しちゃって、コンタクトも明日のスキーの分しかないから、悪いんだけどコンタクト買っといてくれない?」とLINEで頼まれたんです。旅行の次の日から仕事だから、コンタクトがないと会社に行けなくて困ると言って。
清田 すごい時間におつかいの依頼が。
ワッコ 仕方なく言われるがままに渋谷のドン・キホーテにコンタクトを買いに行きました。
森田 彼の状況がイマイチ掴めないな……翌日の分のコンタクトはあったんだよね?
ワッコ はい。彼は普段はメガネをかけてるんですけど、スキーの時はゴーグルをするから、メガネではなくコンタクトをつけてるんです。
森田 あれ、だとすると話がおかしくない?
ワッコ そうなんですよ! 辻褄が全然合わない。だから、メガネはスキーではなくセックスで壊したはずなんです。
清田 えっ?
ワッコ つまりですね、「スキーをしていてメガネを壊した」という部分が完全に嘘なんです。深夜1時半にLINEで言ってきたんだから、100%セックスをしていた弾みで壊したに決まっている。これ、めちゃめちゃ軽率な嘘じゃないですか?
清田 なるほど……普通にメガネを壊したならばそう言うはずだし、嘘をつくってことは、メガネを壊した状況にやましい事情がある……ってことだよね。
ワッコ 浮気セックスでメガネを壊し、同棲している恋人であるわたしに「コンタクト買ってこい」と命令してきたわけですよ。すげームカついて、ドンキに向かう道すがらで泣きましたね。
清田 彼は友達と旅行している設定なんだから、「部屋で酒飲んでるときにメガネ踏んじゃった」みたいな話にすればまだ理屈が通ったかもだが……。
森田 なぜか「スキーで」と言ってしまっている。ここが軽率ポイントだよね。
ワッコ スキーでメガネが壊れるという理由が一番もっともらしいから、安易にそこに乗っかってる感じがしました。
清田 でもちょっと考えると、スキーでメガネが壊れるわけがない。なぜなら、彼はその時メガネをかけていないから……すごく簡単な推理小説みたいだね(笑)。
ワッコ 猿でもわかるトリックですよ!
森田 焦るあまり前後の辻褄を考えずに「この嘘さえ通ればいい」みたいに思ったのかな。
清田 いや、焦ってたかどうかも怪しくない?
ワッコ わたしはその時に想像したんです……セックスでメガネが壊れたとき、「会社とか大丈夫なの?」と女が言う。彼は「コンタクトも明日の分しかないんだよね、どうしよう」と返事をして、一瞬考えてから、「あー、カノジョに買いに行かせりゃいいわ」「ひどい(笑)」「LINEしとこう」……みたいなやりとりがあったんじゃないかなって。
清田 その可能性まじ大だね。
ワッコ この件は、別れるまでずっと責め続けました。「あなたは浮気相手とのセックスでメガネを壊して、わたしにコンタクトを買いに行かせた」と繰り返し、繰り返し言い続け、「あのことは一生忘れないから」と念押しして別れましたね(笑)。なんなら今でも根に持ってます。
清田 彼は最終的に「セックスでメガネを壊した」ことを認めたの?
ワッコ 浮気旅行は認めましたが、セックスで壊したことは最後まで認めませんでした。
森田 そこを認めちゃうと、あまりに非道感が出ちゃうから。
ワッコ 別にどっちでもいいんですけどね!
森田 どっちでもいいんだ(笑)。
清田 ワッコ的には嘘の軽率さに一番腹が立ったってことなのかな?
ワッコ そうですね。嘘が安易すぎたので、バカにされてる感じがしました。
清田 男がつく嘘の詰めが甘くてムカつくっていう問題は『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』でも取り上げていて。嘘自体がムカつくっていうのもあるけど、どうせ嘘をつくなら、しっかり頭を使って、慎重に考えを張り巡らせろやっていう。そんなこともせずに軽率にバレバレの嘘をつく怠慢さがムカつくという話を、複数の女性から聞いております。
ワッコ バレないための努力すらしないってことは、わたしのことめちゃめちゃナメてますよねって思う。
清田 彼は浮気旅行をしているんだから、本来であればすべてのことに細心の注意を払うべきだよね。もちろん、そもそも浮気旅行をするなよという話なんですが……。
軽率な一言に偏見がにじみ出る
森田 恋愛からはちょっと外れるんだけど、ナメによる軽率って仕事の場でもあったりしない?