「死んでいく話が多いね」
と、屋上庭園の片隅のベンチに座って、彼女はのんびりと僕に言った。午後のあたたかい陽射しの中で微笑んだ。昔よく見た懐かしい笑顔の目尻に、今は数本のしわがあった。
「お、笑いじわ。老けたね君も」
「オーケンのほうれい線のほうが相当なものだよ。ガッツリおっさんだね」
「まあな、で、また意地悪で聞くけど、君、40歳を超えたんだっけ? とっくに?」
「10歳下の妹に赤ちゃんができたんだよ。私も相当な大人よ。自分でも信じられないけど」
「うん、オレも、自分がもう46歳だなんて全然信じられない」
「でも46歳…FOK46だもんね」
「そう、FOK46。どうだった? FOK46の腕前は?」
ギブソンJ—200Mをかかえて決めてみせると、彼女はもう一度懐かしい笑みを浮かべて「死んでいく話が多い」と、さっきと同じことを言った。
「いや歌の内容じゃなくてさ」
「オーケンがギターを弾いてること? ビックリ! 私は楽器の腕前はわからないけど…たぶんとってもヘタなんだと思うけど(笑)オーケンがギターの弾き語りを始めるだなんて、時は流れたんだなと思った」
「流れたよ時は。だって君に靴をあげたのアレ何年前だ? もう10年以上前だよね」
「何の靴をくれたか覚えてる?」
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