時代はそなたのような者が担っていくのだな」| 気宇壮大(三)3

豪腕作家として知られる伊東潤が描く、大隈重信の成長譚!
早稲田大学の創始者で、内閣総理大臣を2度務めた大隈重信という男はどのような人物だったのか?
幕末の佐賀藩に生まれ、明治期に藩閥政治から立憲・政党政治への道筋を切り拓いた男の思想と生涯とは。
青年期から最晩年まで、「走る人」「闘う人」「創る人」「聞く人」として駆け抜けた、
令和版大隈像をお楽しみください。

 安房の眼光が鋭くなる。それでも大隈は物怖じせずに弁じ続けた。

 「いかにも『葉隠』の精神は大切です。しかし藩士から天下国家の視点を見失わせ、お家大事に走らせることになります。われらが殿も薩摩の島津斉彬公も、すでに視点は藩にありません。お二人の視点は、この国をどうするかにあります。『葉隠』の考え方、すなわち『武士たる者はただ一死をもって佐賀藩のために尽くすべし』という思想は、もはや藩主のお考えとも齟齬を来しているのです」

 大隈は一息つくと、「結論として」と言って声を大にした。

 「人の自由な思想と、それに基づく行動を、狭い一藩の教育方針によって規制、拘束するなどもってのほか!」

 しばし瞑目していた安房が、ゆっくりと切り出す。

 「では、そなたはどうすればよいと思う」

 「弘道館を廃して蘭学寮を拡充し、全生徒を移すべし」

 その言葉に室内は凍り付いた。弘道館の教育に心血を注いできた安房にとって、それを否定されることは、己の存在意義を否定されたに等しいからだ。

 —下手をすると切腹だな。

 あまりに滔々と弁じてしまったがゆえに、大隈は切腹さえ覚悟した。もちろん「これで切腹を命じられるくらいの拙い運なら、もはやこの世に用はない」と思っていた。

 安房が口を開く。その口調は案に相違して弱々しかった。

 「もはや時代は、そなたのような者が担っていくのだな」

 「えっ」と驚いたのは大隈である。

 「そなたらに『弘道館への復学を許す』と言えば泣いて喜ぶかと思っていたが、どうも思い違いのようだ」

 「はい。それがしは復学するつもりはありません」

 「では、どうする」

 「蘭学寮に入れて下さい」

 「そういうことか」

 大隈がにやりとする。

 「それで、それがし一個のことは片付きます。しかし弘道館の課業を変えていくことは、ご家老御自らがなさねばなりません」

 大隈が安房に白刃を突き付けた。

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威風堂々 幕末佐賀風雲録

伊東潤

豪腕作家として知られる伊東潤が描く、大隈重信の成長譚! 早稲田大学の創始者で、内閣総理大臣を2度務めた大隈重信という男は どのような人物だったのか? 幕末の佐賀藩に生まれ、 明治期に藩閥政治から立憲・政党政治への道筋を切...もっと読む

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kumabouroMM https://t.co/FV6GnYFbZf 約2ヶ月前 replyretweetfavorite