書籍化しました!
“よむ”お酒(イースト・プレス)
本連載『パリッコ、スズキナオののんだ? のんだ!』が本になりました。
その名も『“よむ”お酒』。
好評発売中!
ひとり飲みや、晩酌のお伴にぜひどうぞ
最もお酒を楽しく飲めるのがフェリー
先日、大阪からフェリーに乗って福岡県北九州市の門司港まで行ってきた。大阪と門司の間は「名門大洋フェリー」と「阪九フェリー」という2つのフェリーで結ばれていて、そのうち「名門大洋フェリー」という方に乗った。
大阪港から出る船も、反対に門司港から出る船も、夕方あるいは夜に出発し、翌朝に目的地に到着する。私が乗った船は、19時50分に大阪を出て翌朝8時半に門司港に到着するというもの。船の上で朝を迎えるわけである。
私はフェリーが好きで、年に数回は必ず乗る。様々な乗り物の中でも、最もお酒を楽しく飲めるのがフェリーじゃないかと思っている。歩き回るだけで時間を潰せるほどに広く、外のデッキで風に吹かれながら飲んだり、それに飽きたら船内のテーブル席で文庫でも読みながら静かに飲んだり、と気分に応じて居場所を変えることができる。酒が無くなったら売店か自販機ですぐに買い足すことができる。売店にはいいつまみになりそうなものがたくさん売られていて、フェリーによっては軽食を出すスタンドが併設されていたりもする。
四方八方がオール海だというのもいい。普段、海が見たくなってわざわざ出かけたりするその海に取り囲まれていて見放題。どこかの港に着かない限りはここからどこへも行きようがないという、ちょっと日常から隔絶されたような感じも「じゃあ飲むしかないよな」と思わせてくれる。節度さえ守っていれば最高の飲み環境だと思うのである。
船のバイキング
大好きなフェリーに乗って、「さあ今日の酒は旨いぞ!」と乗船前から胸が高鳴っていた。前述のとおり、船が出発するのは19時50分で、普段の私のリズムからすると夕飯には遅い時間。とにかくお腹が減っている。なのでもう、乗船するなり船内にあるレストランへ直行だ。「名門大洋フェリー」のレストランはバイキング形式になっていて、大人ひとり1500円ほどで食事をすることができる。運賃とは別料金である。
日頃、バイキングと酒って相性があまりよくないのでは?と考えている自分だが、海上では別である。いつものように「とにかく限界までたらふく食わないと損だ!」みたいなケチな気持ちは薄らぎ、「まあ、好きなものをちょっとずつ取って、全部がおつまみだと思えば、なかなかいいものですな、ははは」と余裕がある。
実際、周囲の席をチラッと見渡すと、レストラン内で販売されている焼酎のボトルを買い、グループで酒盛りをしている人たちが数組いた。その人たちは、おそらくレストランの営業が終了する数時間後まで色々食べながらゆっくりと飲み続けるつもりなのであろう。なんと人生の楽しみ方を知っていらっしゃる人々だろうか。
船のバイキングだからといって手抜きの料理が並んでいるようなことはまったくなく、皿によそったもの全部が旨かった。ジョッキまで冷蔵庫で冷やしてくれているキンキンの生ビールを飲みながら窓の外を見ると、船がゆっくり大阪港から離れていく。それを眺めていると、何かのお祭りだろうか、遠くに花火が打ち上がり、私の隣のテーブルで飲んでいる人が「おお!俺この夏初めての花火やわ!得したわ!」と言うのが聞こえた。
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