撮影OKでもシェアされるとは限らない、SNS投稿を促した森美術館の工夫

森美術館では国内の美術館ではかなり早くから展覧会の写真撮影をOKにしてきました。ですが、たとえ撮影OKでもそれが知られなければ意味がありませんし、SNS投稿をしてほしくても狙いどおりいくとは限りません。それでも同館ではSNS経由での来館者を増やすことができたのですが、いったいどんな手法が使われたのでしょうか。SNSの「中の人」、洞田貫晋一朗さんが工夫したムード作りとは? 著書『シェアする美術』から紹介します。

「撮影OK」に挑戦し続ける森美術館

この連載の第3回で、美術館内のカメラ撮影をOKにしたことが、お客さんの来館につながったというお話をしました。

もともと森美術館には、「『アート&ライフ』をモットーに生活の中のあらゆる場面でアートを楽しむことができる豊かな社会の実現」というミッションがあります。そのような素地があるので、新しい価値を生み出していくこと、新しい試みに積極的にチャレンジしていくことをよしとする雰囲気や、新しいものを吸収していく環境があるのです。その点でいえば、撮影可能を実現してきたことは、実に森美術館らしい試みだと思っています。

この試みがあるからこそ、現在の来館者と美術館がSNSでつながるきっかけになり、情報発信の好循環につながっていくわけです。

ただ、撮影を解禁した2009年当時は、ちょうどツイッターのインターフェイスが日本語対応になってから、あまり時間が経っていない時期でした。SNSという言葉も、いまほど使われていなかったと思います。当然、インスタグラムも世に出ていません。

そもそもスマートフォンの所持率もまだそこまで高くありませんでした。そうした状況の中で撮影の解禁に踏み切ったのは、当時ブログで個人が情報発信をするようになってきた背景から、その口コミ効果を狙って、マーケティング戦略のひとつとして解禁した背景と、まだ敷居が高い現代美術の鑑賞にプラスアルファの付加価値を提案したい、という理由からでした。

ユーザーがさまざまな場所で写真や動画を撮って、SNSで発信する文化は、この数年後から活発になっていきますので、森美術館の撮影解禁は先駆的な挑戦だったと思います。

もちろん、「撮影可能な美術館」として議論されることも、この施策を行う意味につながる大切な要因です。

とはいえ美術館側に、撮影可能な展示空間を来館者に提供したい、という気持ちがあっても、著作権の問題が立ちはだかります。展覧会や作品によって、撮影が可能にならない場合もあります。

しかし、SNSがここまで広がる前から「撮影できる美術館」を実現させようと努力してきた森美術館の姿勢が理解され、方々に広がりを見せている最近の事情は嬉しいことです。

アメリカの美術館では、撮影が許され、展示室内で寝転がって写生を楽しむ子どもたちがいるなど、公正利用の範囲であれば著作権侵害にはあたらないとしているところが多くあります。それに対して日本は、著作権法に公正利用に関する規程がないことからもわかるように、公正利用に対する理解はまだまだなのかもしれません。

森美術館の試みが、どこまでこの問題に一石を投じることができるかわかりません。ですが、アートを生活の中にも広げていきたいという思いや、著作権を考える機会を、もっと提供できればと考えています。

最近では、アーティスト自身もSNSを活発にやっていることが多くなりました。アーティストがSNSの重要性を理解しているので、撮影OKに抵抗がなく、こちらの意図をご理解いただけることが多くなったのです。

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シェアする美術 森美術館のSNSマーケティング戦略

洞田貫晋一朗

森美術館のSNS運用を手掛ける洞田貫晋一朗さんの著書『シェアする美術』から、全12回にわたって連載形式で本の中身を紹介します。国内の美術館では随一のフォロワー数を誇る森美術館ですが、そこに至るまでにどんな工夫がなされてきたのでしょうか...もっと読む

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