景行天皇、碩田(おおきた)の土蜘蛛(つちぐも)を討つ
十月、天皇は碩田国(おおきたのくに)※1までやって来ました。地形は広大で美しい国でした。それで碩田と名付けました。速見邑(はやみのむら)※2に着くと、ハヤツヒメ(速津媛)という女人の長が、天皇がおいでになったと聞いて自ら出迎え、こう進言しました。
「この山に鼠石窟(ねずみのいわや)という大きな石窟(いわや)があり、二人の土蜘蛛がその石窟に住んでいます。一人をアオ(青)といい、もう一人をシロ(白)といいます。
また、直入県(なおりのあがた)※3の祢疑野(ねぎの)※4に三人の土蜘蛛がおります。一人をウチサル(打猨)といい、二人目をヤタ(八田)といい、三人目をクニマロ(国摩侶)といいます。
この五人はそれぞれ生まれながらに強力で、手下も大勢おります。皆、『皇命には従わない』と言っております。もし強いて召し出せば兵を起こして防ぐでしょう」
天皇はそれを聞いて憎みましたが、進軍できませんでした。来田見邑(くたみのむら)※5に留まり、仮の宮を建てて住み、そこで臣下たちと協議しました。
「今、大軍を動かして土蜘蛛を討ちとってしまおう。我が軍の兵に恐れをなして山野に隠れてしまうようなことになれば、必ず後の憂いとなろう」
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