第7章ダンディズム|3第一世代~ダンディの誕生

美的な趣味に於ける独自の上下関係は、社会的な上下関係と必ずしも合致せず、国王でさえ、どうすれば人から「カッコいい」と思われるかについては、ブランメルの忠言に従うより他はなかったーー。平野啓一郎が、小説を除いて、ここ十年間で最も書きたかった『「カッコいい」とは何か』。7月16日発売の新書を全編連載。 「カッコいい」を考えることは、「いかに生きるべきか」を考えることだ。(平日毎日更新)

3第一世代~ダンディの誕生

ダンディの元祖ボー・ブランメル

 ダンディズムは、社会が平和な時にしか花開かない。戦争になれば、オシャレどころではなくなるからである。

 一九世紀初頭のイギリスは、産業革命によって急速に資本主義化が進み、伝統的な貴族やジェントリーとは違ったブルジョアジーが社会に台頭してくる。彼らがいきなり、新しい価値観を体現し、ダンディズムを誕生させたのかというと、そうではない。

 新興のブルジョワたちに経済的に圧倒され、またフランス革命の影響から、その社会的な地位の維持に危機感を覚えたのは貴族たちで、彼らは、成金や庶民が決して模して及ばぬ貴族性──知性や教養、何よりエレガンス──を誇示するようになる。それらは、幾ら金があっても一朝一夕には身につかないものだからである。

 バッキンガム宮殿の改築、ウィンザー城の大改造、ロイヤル・パビリオンの建造などで知られ、文芸や美術を能くし、ファッションへの拘りなど、浪費家としても悪名の高かったジョージ四世は、言わばその貴族文化の象徴的な存在だった。

 この享楽的な国王には、指南役とでもいうべき存在がいた。それが、ダンディの元祖ボー(洒落者)・ブランメルこと、ジョージ・ブランメルである。

 この人については様々な逸話が残っているが、自らもダンディとして鳴らした詩人バイロンの次のような言葉は、殊に有名である。

「現在のヨーロッパに偉大なる三Bがいる。ボナパルト(ナポレオン)、ブランメル、それに私だ。しかし、その中でも最高に偉大なのは、やはりブランメルだろう」(5)

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カッコいい」とは何か

平野啓一郎

『マチネの終わりに』『ある男』を発表してきた平野啓一郎が、小説を除いて、ここ十年間で最も書きたかった『「カッコいい」とは何か』。7月16日発売の新書を全編連載。 「カッコいい」を考えることは「いかに生きるべきか」を考えることだ。(平日...もっと読む

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