3第一世代~ダンディの誕生
ダンディの元祖ボー・ブランメル
ダンディズムは、社会が平和な時にしか花開かない。戦争になれば、オシャレどころではなくなるからである。
一九世紀初頭のイギリスは、産業革命によって急速に資本主義化が進み、伝統的な貴族やジェントリーとは違ったブルジョアジーが社会に台頭してくる。彼らがいきなり、新しい価値観を体現し、ダンディズムを誕生させたのかというと、そうではない。
新興のブルジョワたちに経済的に圧倒され、またフランス革命の影響から、その社会的な地位の維持に危機感を覚えたのは貴族たちで、彼らは、成金や庶民が決して模して及ばぬ貴族性──知性や教養、何よりエレガンス──を誇示するようになる。それらは、幾ら金があっても一朝一夕には身につかないものだからである。
バッキンガム宮殿の改築、ウィンザー城の大改造、ロイヤル・パビリオンの建造などで知られ、文芸や美術を能くし、ファッションへの拘りなど、浪費家としても悪名の高かったジョージ四世は、言わばその貴族文化の象徴的な存在だった。
この享楽的な国王には、指南役とでもいうべき存在がいた。それが、ダンディの元祖ボー(洒落者)・ブランメルこと、ジョージ・ブランメルである。
この人については様々な逸話が残っているが、自らもダンディとして鳴らした詩人バイロンの次のような言葉は、殊に有名である。
「現在のヨーロッパに偉大なる三Bがいる。ボナパルト(ナポレオン)、ブランメル、それに私だ。しかし、その中でも最高に偉大なのは、やはりブランメルだろう」(5)
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