霊性進化論・月面着陸・北朝鮮

夏真っ盛りの中、外に出ないでのんびり読書したいなんて人も多いでしょうね。今回の「新・山形月報!」も読書の意欲をかきたてる本がズラリです。取り上げられている主な本は、スヴェン・へディン『さまよえる湖』(中公文庫BIBLIO)、大田俊寛『現代オカルトの根源』(ちくま新書)、皆神龍太郎、志水一夫、加門正一『新・トンデモ超常現象60の真相』(楽工社)、リチャード・R・ネルソン『月とゲットー』(慶應義塾大学出版局)、初沢亜利『隣人。38度線の北』(徳間書店)などです。

前回のミャンマーからすぐにラオスにやってきて、本の仕入れも十分にできていないので、今回はいささか母集団が薄くて恐縮。それで、前々回前回のアンコールワット旅行記以来、少し旅行記づいていて、まずはスヴェン・へディン『さまよえる湖』(中公文庫BIBLIO)なんだけれど、これは絶版なのかな? でも中古で安く手に入るし、図書館にもあると思う。楼蘭や敦煌を見つけ、そしてかつてはそれらの繁栄を支えていたロプノール湖が、実は移動しているのだという説を唱えたへディンが、実際に移動した後の湖を見つけて自分の理論を実証した旅行記だ。

たぶんこの発見の話自体は、昔ちょっとくらいは聞いたことがあるんじゃないかな。ぼくは小学生の頃にジュブナイルの「世界の大探検」みたいな本で、へディンが砂漠を旅していると、「おお、あるはずの湖がない!」と驚いて、それでさまよえる湖がわかりました、という話が出ていたんだけれど、もちろんそんな馬鹿なことがあるわけがない。砂漠であるはずの湖がなかったら死んじゃうよ。地元のいろいろな話を集めるうちに、水がないはずの地域にいる住民が、最近舟を使っているという噂を聞いて、「これぞ川の流れが変わって湖が移動した証拠!」と直感して探検の計画をたてたという話。

一応、ヘディンは画期的な探検旅行をしているんだけれど、本そのものは淡々とした旅行記なので、クライマックスでどーんと幻の湖が見つかって「おおっ!」というようなものではない。テレビドラマや映画に慣れていると、ついついそういう盛り上がりを期待してしまうんだけれど。むしろ車とラクダと馬車を仕立て、食料と水と燃料の心配をしつつ、考古学的な調査もして、という旅行の些事が中心で、そういうのを楽しめるかどうかで読んでおもしろいか決まると思う。

肝心の湖も「あったー、やったー」と一言言ったらあとはもう、帰りをどうしようかとか、地元のガイドどもがインチキしていたのが発覚してどうしたとか。今のほとんどの旅は、アマゾンやボルネオの首狩り族探しに出かけるのでもない限り、ぼくの出張でも、かつてのバックパック旅行でも、基本は行けば何とかなる。その意味で時代がいかに変わったかも、読んでいて如実に感じられる本ではある。巻末についた椎名誠のお気楽そうな談話は、今とはっては場違いな感じだけれど、当時は営業的に意味があったんだろうね。

それとはまったく関係なく読んでいたのが、大田俊寛『現代オカルトの根源』(ちくま新書)。大田は、グノーシス主義などの研究をしている宗教学者で、オウム真理教についても視野の広い分析を行っている人だ。この本はオウム真理教などを各種のオカルト思想の一つ—特に人類が今後、卑しい物質の奴隷たる存在から、霊的にもっと高度な存在へと進化するという一連の思想—としてとらえ直そうとするもの。神智学/人智学やらアダムスキーやらを概観して、オウム真理教や幸福の科学もその一種として紹介する。

現代オカルトの根源:霊性進化論の光と闇 (ちくま新書)
現代オカルトの根源:霊性進化論の光と闇 (ちくま新書)

大田の立場は、こういう思想は進化論と宗教思想をなんとか融合させようとした結果だというんだけれど、うーん、進化論が出てくるまでみんな平等思想を信奉していたというわけではないし、有象無象の中からもっと高度で優秀な民族が出てくるという選民思想は進化論よりはるかに前からあったものだから、それを重視すべきなのかどうか。進化論はむしろ、そこに科学的な意匠をくっつけただけだと思う。それと数あるオカルト思想の中から選ばれているのがなぜこれなのか、というのはもう少し全体的な概観がいるんじゃないかとは思う。

それでも、個人的には幸福の科学の成立と思想についてまじめに説明してくれた部分が収穫ではあった。あれはそういう教義なんですか。こういう、カルトやオカルト思想の解説本というのは、原典とかをあまり見たくないぼくみたいな人間にとってはありがたいもの。いや、大学時代はおもしろがってナントカ教の経典とかれこれ読んで見たりしたけれど、基本、わかるように書かれていないし、またなまじわかるといやなんだよね。

以前紹介したスティーヴン・ハッサン『マインドコントロールの恐怖』(恒友出版)にも書かれているけれど、カルトに引きずり込まれるのは、中途半端に頭がいいつもりで、自分はこんな馬鹿な話には決してだまされないとたかをくくっておもしろ半分に足をつっこむ連中で(だからこそオウム真理教とかも、高学歴の一見頭よさげな連中がたくさんいたんだよ)、そういうのに深入りしたくないのだ。

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新・山形月報!

山形浩生

経済、文学、コンピュータなどの多方面で八面六臂の活躍をする山形浩生さん。その山形さんが月に一度、読んだ本、気になる現象について読者にお届けする密度の濃いレポートです。

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コメント

sarumarudayu 『隣人 。 38度線の北』の巻末文章は本当によかったなぁ。/第20回  約5年前 replyretweetfavorite