産めないかもしれない」という「普通」の呪縛をほぐしてくれた様々な家族の形

産まなければ母ではないのか、血がつながらなければ家族ではないのかーー。母になること、家庭を持つことに葛藤を抱えていたライター/編集者の徳瑠里香さんの初の単著『それでも、母になる』をcakesで特別連載。自身奇跡的な妊娠をきっかけに、さまざまな境遇の女性たちを取材、その中で考えた新しい時代の「つながり方」をまとめた一冊です。第一回は著者の徳さんにこの本を書いたきっかけについてうかがいました。

生理と排卵がない。それでも、母になった

—この本を書かれたきっかけは?


それでも、母になる(ポプラ社)

徳瑠里香(以下、徳) 2年以上前に、生まれつき生理と排卵がない自分の身体のこと、それでも妊娠したことについて、ハフポストに投稿したんです(私は、自然に生理も排卵もありません。それでも今、妊娠5ヶ月です)。

 思いがけず反響があって、自分の身近な人から知らない人まで、たくさんメッセージが届いて、祝福の言葉とともに、自身の身体の事情などを語ってくれて。表には見えないけれど、みんな大なり小なりさまざまな事情とともに生きているんだなあ、と少し見える世界が変わりました。
 妊娠中、改めて自分の身近にいる人たちにじっくり話を聞きたいと思ったのが始まりですね。

—ハフポストに寄稿するのも大きな1歩だったのではないでしょうか。

 そもそも掲載しようと思って書いたわけではなく、ハフポストの特集「Ladies Be Open」で同じように生まれつき生理がない方の記事を読んで、衝動的に書いちゃったんですね。自分だけに留めておいてもよかったんですが、「体験を聞かせてください」と編集部のメールフォームが開かれていたので、送ってみました。
 掲載が決まって、公開する時は、ちょっとドキドキしましたね。それまで自分に生理がないことを声を大にして言ったことはなかったので。

人生の選択や家族のかたちに「普通」なんてない

—著書を拝読して、マウンティングせず、多様な生き方を受け止め合うガールズトークを聞いているような気持ちになりました。瑠里香さんと信頼関係があるからこそ語ってくれる、さまざまな境遇にある女性たちの人生や家族の話を読者である私もガールズトークに参加した気分で聞きながら、自分自身に照らし合わせて、思いを馳せました。

 実際にこの本に登場する人たちは、はじめましての人は誰一人いなくて、もともと私の身近にいる人たちです。取材というより、本当に、お茶を飲みながらゆっくり、じっくり、おしゃべりを繰り返してまとめたんですね。
 たとえば、中学時代からの友人であれば15年以上の関係性があって、改めて数時間、数回にわたってじっくり言葉を交わして。1回1時間のインタビューをして書いたわけではないので、そういった関係性や時間のようなものが込められているとは思います。

—驚いたのは、読む前と後で目線が変わったことなんです。この本に登場する女性たちは、誰かと比べたり、世の中の基準に縛られたりすることなく、自分を貫いて生きています。もっと自分を生きていいんだ、と前に進む勇気をもらいました。孤独じゃないんだ、と。

 嬉しいです。私自身、16歳の時に「産めないかもしれない」と言われて、母になれないかもしれない、自分の家族をつくれないかもしれない、と絶望したこともありました。でもそれは、ただ自分が育ってきた環境や周りの「普通」に縛られていたからなんですね。
「産まない人生」を選んでいる先輩や特別養子縁組や里親など「産まずに育てる」選択をしている人たちと出会って、自分の「普通」がほぐれていって、心が軽くなりました。
 この本は、その過程、いろんな人生の選択と家族のかたちを築いている人たちとの出会いをまとめたものですね。

「呪い」ではない母子関係を書く

—瑠里香さん含めこの本には10人の女性が登場しますが、人それぞれその時々によって、響く物語や言葉が違うのではないかと思います。どの物語にも瑠里香さんの気配があって、特に、16歳で妊娠したご友人・美菜子さんの物語には、強く感じました。

 初潮がなく、産婦人科を訪れ「産めるか産めないかわからない」と言われた16歳の時に、美菜子は妊娠しました。「産めないかもしれない」自分に対して、「産んで、母になった」美菜子。多感な高校時代に、自分とは違う道を選んだ彼女の存在は大きかったですね。
 美菜子の子育てを近くで見ていたから、たとえ自分が産めなくても、母になれなかったとしても、産んで、母になる人に対して、羨ましいとかそういう思いはなくて、ただただ尊敬の気持ちが湧いて。
 自分とは違う境遇にある人に心を寄せることは、心を軽くし、人生を豊かにしてくれると思います。

—旦那さんとのエピソードもオープンに書かれていて、ドキドキしちゃいました(笑)

 好き勝手書いて大丈夫かな?という思いもあったんですが、夫は全く気にしてないんです。SNSもほとんどやってないし、人からどう思われるかにびっくりするほどとらわれていない。飄々と淡々と自分を生きていて、羨ましいくらいです。この本も読まないと思いますね(笑)。

—お母さまの話も、毒親の存在が語られるなか、こういう親子関係があるんだなあとホッとしました。

 母子関係は「呪い」とも言われますが、私自身はほとんど屈託がなかったので、わざわざ書く必要はないと思っていました。でも、実際に母になってみて「毒親になったらどうしよう」とマイナスな感情が引き出されてしまうこともあって。自分が親になる上で、母の存在が支えになったので、改めて話を聞くことにしました。
 話を聞いてみると、母は、自分が子ども時代に嫌だったことは子どもにはしないという明確な意思を持っていました。たとえば母は、九州生まれの父、つまり私の祖父から、「長女だから」「女だから」と言われ続けてきたことが苦痛で、三姉妹の長女である私には一切その言葉をかけなかった。私がそうしたプレッシャーを受けずに育ってきたことは、母が強い意志で選んだことによって、成り立っていたんだということに気づきました。
 だからこそ私も親として、娘にどんな言葉をかけるか、どう接するか、意思を持って選ぼうと思いました。

世界を見るメガネを掛け替えるヒントと問いを

—それぞれのエピソードを優しく受け止めて、静かに淡々と書かれているから、著者である瑠里香さんの優しいシャワーを浴びて、心がほぐれていく。会うと元気になるのと同じように、読むと前を向ける本だと思います。

 うう、ありがとうございます(涙)。同じ状況にあっても、どう捉えるか、どう見るかで、自分の世界は変わってくると思っています。人生にはままらならないことがあって、事実は変えられないけれど、捉え方・見方は変えることができる。
 この本の中に登場する人たちは、みんないろんな境遇にあるけれど、誰かのせいにすることもなく、信じると決めた人を信じて、事実を受け止めて、そこからまた自分の意志で選んでいます。
 もちろんどうにもならないことや誰かに傷つけられることもあるとは思いますが、ほんの少しでも、世界を見るメガネを掛け替えるヒントになれば、嬉しく思います。

—この本の位置付けとして、目指すものはありますか?

 著名人が出てくるわけではないし、奇抜で斬新な人生や家族のかたちが書いているわけでもない。すぐに役立つこともないし、白黒はっきりした強いメッセージや答えがあるわけでもない。ルポのようなエッセイのような。曖昧なものを曖昧なままに、きちっと型にはまり切らない、こういう本があってもいいのかなと思っています。
 未熟な私が書いた本なので、役立つことを“教える”ようなものではなく、「私はこうですが、あなたはどうですか?」と問いを投げるようなものかなと思います。
 実際に、この本を読んでくれた友人が、自身の家族の事情を話してくれて、じっくり話を聞く機会を得ました。彼女の話も書きたいと思っています。
 この本の続き、身近な人たちに人生の選択と家族のかたちについて話を聞いて書いていくことは、ライフワークとしてもこれからも続けていきたいですね。

(取材・もろずみはるか)

この連載について

それでも、母になる

徳瑠里香

産まなければ母ではないのか、血がつながらなければ家族ではないのかーー。母になること、家庭を持つことに葛藤を抱えていた著者が、奇跡的な妊娠をきっかけに、母子の関係、そして、さまざまな境遇の女性たちを取材する中で考えた家族についてまとめた...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

darling00000000 徳瑠里香 @rurika109 | “ 同じ状況にあっても、どう捉えるか、どう見るかで、自分の世界は変わってくると思っています。人生にはままらならないことがあって… https://t.co/t6Kk68aI0r 5ヶ月前 replyretweetfavorite

rurika109 【cakesでインタビューが公開】本に込めた思いを語っています。ぜひ、読んでいただけましたら…! 5ヶ月前 replyretweetfavorite