「常に『未完成』でありたいですね。言葉を替えると、未完成だからこそ、明日に向かってチャレンジができる」
(堂本光一,1979-)
対照的な2人
チームで仕事をすることの意味とは何なのでしょうか。ひとりでも進めるかもしれない人生において、あえて誰かと〝組む〟意味。能力の高さを自負する人ほど、自分ひとりでやったほうが早いし、完成度も高いと思ってしまいがちです。ただ、うまく人に任せることができれば、自分も集団もさらなる進化が望めるかもしれません。
ひとりでも完璧にできるように動きながらも、KinKi Kidsというコンビを組み、さらに舞台では座長としてカンパニーを率いる堂本光一はチームで仕事をすることの意味を見出します。
KinKi Kidsは、よく対照的と言われる2人です。ファッションリーダー剛と、ファッションには興味がなく、1ヶ月の地方遠征でもパンツ2枚と、私服2着で過ごすという光一。ジャニーさんには1回しか怒られたことがないという剛と、怒られ通しで育ってきているという光一。
そんな表面的な部分だけではなく、2人は生き方や仕事に対する姿勢も重なりません。それまでのジャニーズらしからぬ、変化球を投げ続けてきた堂本剛に対して、ジャニー喜多川の理想のショービジネスの道を、粛々と追い、走り続ける堂本光一。異端の道を自ら作っていった剛と、ジャニーズ本流の道の中心に堂々と立ち、鍛錬を続ける光一。
さらに具体的な違いを言えば、「ミュージカルをやってみないか」と言われ即答で断った堂本剛に対し、堂本光一は帝国劇場でのミュージカル『SHOCK』を続けています。ジャニー喜多川の理解者・剛と体現者・光一と言い換えてもいいでしょう。
『SHOCK』はもともと、ジャニー喜多川の作・演出の舞台で、光一はそれを2000年から5年続けたのちに、2005年からは自らが構成・演出・プロデュースを務める形で『Endless SHOCK』にリニューアル。光一個人も、森繁久彌が持つ帝国劇場の単独主演記録を23年ぶりに更新、上演回数1700回を越えても、発売と同時に全席完売、「日本一チケットが獲れない舞台」と言われる状況が続いています。
光一というひとりのアクターがここまで幅広く手がけるというスタイル自体が、世界的にも珍しいようで、世界的なダンサー・振付師であり、『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』のディレクターも務めたトラヴィス・ペインに「演技、歌、ダンス、アクションのすべてを、一つの舞台でここまで一人でこなす人はたぶんいないよ」と言われるほど。
まずは光一の「ひとりでの」こだわりを見てみましょう。
全ての行動をルーティーンに
『SHOCK』を中心とする光一の仕事の姿勢は非常にストイックです。例えば、2ヶ月の上演期間中は、生活を毎日同じルーティーンにします。起きる時間、シャワーを浴びる時間、食事、ウォーミングアップをする時間を全て決めて、毎日それを〝厳守〟する。その理由は「自分にミスの言い訳ができないようにするため」です。
「アクシデントが起きたとき、毎日を同じに過ごしていれば、『あのせいだ』と逃げ道が作れないじゃないですか。それに、毎日同じことをやっていたほうが、その日の自分に何が足りなかったかも見えやすい」
ストイックな姿勢は公演中だけではありません。光一は、DVDなどの映像作品の編集にも、自ら編集所に行って立ち会います。その関わり方は、片手間のものではありません。例えば1曲の編集を昼間の3時に始めて、夜中の3時までかけ、それでも終わらなかったこともあるほど。期間としても半年かけるといいますから、相当な時間です。そこでカットはもちろん、細かい音の調整から、発色に至るまで自ら考える。
当然、そこまでやれば、スタッフとの意見の衝突も出てきます。例えば、寄りの画(アップ)を使いたがるスタッフと、引きの画で全体像を見せたがる光一。普通はタレントの側が、自分のアップを使いたがりそうなものですが、その逆です。光一はあくまで作品としての完成度を高めたい人なのです。
そのスタンスは、光一がライブ中にファンに手を振らない理由にも表れています。もちろん、お客さんの目を見て手を振れば、心をつかめることはわかっている。しかし、割と早い段階で「これ要らないな」と思ってしまったのだそうです。その理由は「ファンサービスよりパフォーマンスで、お客さんの心をつかめるアーティストになりたい」という目標を自分に課したから。
「『もう一度手を振ってほしい』と言われるより、『もう一度あのステージを見たい』と言われる人になりたい。そのほうが僕は100倍うれしい」と語ります。
〝捨てる勇気〟と〝託せる自信〟
ただ、完璧主義がたたり、自分で抱え込みすぎてしまうとパンクしてしまうことも。光一は、演者でありながら演出もし、全体をまとめる座長でもあります。2005年にストーリーまで手がけるようになったときには「完璧にしなきゃいけない」という思いが先走りして周りが見えなくなったり、やるべきことをたくさん抱えて「あれもやらなアカン、これもやらなアカン」とパニックになったりしたことも。
しかし、そういった経験から身についたのが、〝捨てる勇気〟。いわく「〝今すべき、一番大事なこと〟に集中してやることを覚えた。そうしないと、結果的に何もできない」
さらに、周囲を否定してしまうのは、自分の小ささが原因だと反省もします。
「周囲に対して『それは違う』って言うのは、『やりたくない』んじゃなくて『できない』だけ。自分にできる器がないってこと」
そうして、何もかも自分で見なければ気が済まなかった時代を経て、人に任せられるようになっていくのです。
「自分だけの視野でものづくりをしていても、限界があって、ある程度のものしか生まれてこないんです。少々不安があっても人に託せるかどうか。座長としての自信って、そういうところに表れる気がします」と語る姿からは、自信が感じられます。
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