※牧村さんに聞いてみたいことやこの連載に対する感想がある方は、応募フォームを通じてお送りください! HN・匿名でもかまいません。
女友だちが子どもを産んでいく。
みんなが集まると、自然、話題の中心が子どもになる。
「かわいいね!」
「なんさい?」
「ポッキー食べる?」
「鼻血でちゃうよ!」
りゅうくん、ゆなちゃん、かのんちゃん。みんなが子どもの名前を呼ぶ。「やっぱり子ども産んだらさ、母親の顔になったよね」。やっと友だち自身のことに話題がうつったかと思いきや、それはその子がいかに母であるかという話である。その子自身の話ではなくて。
りゅうくんママ。
ゆなちゃんママ。
かのんちゃんママ。
わたしの友だちだったキョウコが、シズカが、そのように「○○ママ」と呼び替えられてしまうことに耐えられず、わたしは唇を嚙む。ママ友という言葉は聞くけどパパ友という言葉はあまり聞かない。わたしが男だったら、わたしの男友だちが「○○パパ」と呼ばれた時に、このような「塗り替えられた感」を味わっただろうか? 友だちの名前を呼びたい。
けれどもわたしはそんなに友だちとべったり仲良くするほうではなく、なんならキョウコともシズカとも七年くらい会ってなくて、七年ぶりに会うとなるとあの時みたいに「きょこたん」とか「シズカ」とか呼べる感じもしなくて、ぎこちなくちゃんづけをして、ぎこちないタメ口で、呼びかける。
キョウコちゃんはさあ。
シズカちゃんはさあ。
……シズカの夫がどんな人なのかは知らない。けどキョウコの夫には会ったことがある。なんなら元カレにも。そのまた前の元カレにも。キョウコはなんというかいわゆる恋愛体質というやつで、十代の時からひっきりなしに男とくっついていた。男の話しかしなかった。「うぜえんだよ恋愛脳」。わたしはキョウコの前で男言葉をしゃべり、雑に扱った。そうするとキョウコはなぜか喜んで、もっともっとずっとずっと男の話をした。男の話ばかりするキョウコを雑に扱いながら、「この子はちっとも自分の話をしない子だなあ」、そう、思っていた。
ちっとも自分の話をしないキョウコが付き合う男は、自分の話しかしない男ばかりだった。全然誰も聞いてないのに「本田宗一郎の哲学はな……」とか「レッチリのフリーのプレイスタイルはな……」とか語るその男たちがアピールしたいのはようするに、「本田宗一郎の哲学を理解している俺」であり、「レッチリのフリーのプレイスタイルを語れる俺」であった。つまり「俺」であった。
ポッと出の「俺」が、それより前からキョウコの友だちであるわたしに対して、デカイ顔をしやがるのが、本当に、気に食わなかった。
「うちのキョウコが迷惑かけてるでしょ」? はぁ?
「キョウコはこういうやつだから」? はぁ?
「キョウコは俺の女」的な所有者感を醸してくる「俺」たちはみな、「ダメなキョウコを俺が守る」という世界観で生きており、ソロでヒーローだった。ソロでヒーローをやりたがる感じの男の前で、そのヒーローショーの演出通りにダメなキョウコでいることが、キョウコは、非常にうまかった。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。