声が小さく、仕事もうまくいかない日々
——司さんご自身も、ボイストレーニングで人生が変わったのですよね。ボイストレーニングと出会う前は、どのような話し方だったのでしょうか。
司拓也(以下、司) 以前は「ささやき司くん」でした。最低限聞こえる大きさの声でしか話しておらず、話をしてもよく聞き返されましたね。
——今のお姿からは想像もできません。昔は、会話をどのようにとらえていらしたのですか?
司 あくまで声と言うのは「情報を伝える手段」であって、情報が伝わりさえすれば気持ちが伝わらなくてもいいと思っていました。声を出せば、相手は自動的に内容を理解してくれるだろうと。こちらとしては正しく伝えたつもりだったので、当然相手にも伝わっているはずだと思っていたんです。でも、抑揚のない話し方では、相手は大切な情報だと受け取ってはくれず、記憶には残らないんですよね。ですから、「言った」「言わない」のトラブルが多かったです。今思えば「相手がどう感じたのか」という想像力が欠如していたんですよね。
——声が出ないと、やはり仕事面でもうまくいかないものですか?
司 以前は保険会社に勤務していたので、加害者の代理人として示談交渉を行うことも業務のひとつでした。当時私は関西にいたので、被害者は大きな声で関西弁でまくしたてます。お怒りの気持ちはわかるのですが、これが怖い。怖いと思ったら声が出なくなって、思考停止してしまうんです。相手からは「頼りないから担当者変わってくれ」と言われることも多く、なかなかうまくお話ができませんでした。理不尽な事故に遭遇して、さらに頼りない担当者だったら相手が怒るのも当然ですよね。30代後半には労働組合の議長に選出され、経営陣と労使交渉しなければいけなくなりました。しかし、経営陣からなめられ、仲間たちからは頼りないと思われて、散々でした。
ボイス&メンタルトレーニングと出会って人生が変わった
——「ささやき司くん」が変わったきっかけは何だったのでしょうか。
司 このままではいけないなと思っていたところで、のちにビジネスパートナーとなる堀澤麻衣子さんの「声が変われば人生が変わる」という著書と出会ったんです。とても感銘を受けて、2009年の1月に堀澤さんが大阪を訪れたときに、初めてレッスンを受けました。
——それが本書のベースとなった「一日修得レッスン」ですね。
レッスンを受けて、どうでしたか?
司 はい。ほんとに1日で、すごく声が大きくなり、話しても聞き返されないことに驚きましたね。しっかりした声を出すと、相手にやる気や誠意、そして情熱を感じてもらえます。そして、本当に自分がやる気や誠意、情熱のある人間になっていくんです。まるで自己催眠のようでした。
——堀澤さんから見て、司さんはどう変わりましたか?
堀澤麻衣子(以下、堀澤) レッスンを受けた後、司さんが「誠実な声が出るようになって、子どもの頃に持っていた誠実な気持ちを思い出した」と言っていたのが印象的でした。それを聞いて、声が自分の心を教育したんだなあと感じましたね。面白かったのは、司さんがレッスンを受けるにつれ、話し言葉だけでなく、文章も力のあるものに変化したということです。本気で話そうとするから、相手に響く言葉で伝えようと、言葉もつむがれていくんでしょうね。
——声が変わると文章も変わるって面白いですね。
司 弱々しい声って、弱い筆圧で書かれた文字のようものなんです。弱い声で発言すると自分の記憶にも残らないので、土台がぐらぐらして思考を積み上げていくことができないんですよ。それが、はっきりとした声になると、自分の中に記憶が残り、理路整然とものを考えられるようになります。周りの人も自分の話を聞いているので応援してくれるし、間違っていたら指摘してもらえて、失敗を未然に防ぐことができます。本当に、声を変えたことで仕事面ではずいぶんとプラスになりました。
——具体的に仕事面ではどのようにうまくいきましたか?
司 意図していることが相手に伝わり、誤解が減って仕事のミスも減りました。交渉相手とも「自分とまじめに向き合おうとしているんだ」と感じてくれたのか、心を開いてくれて、スムーズにお話や交渉できるようになりました。労働組合でも社長とつつがなく交渉を終え、チームがしっかりとまとまりました。労働組合の仲間からは「別人になったようだ」と言われましたね。
——周りの見る目が変わっていったんですね。
司 そうですね。昔は自信がなかったので、自分自身をよく見せようとして、自分の弱さや至らなさを隠そうとしていたんです。「できない奴だと思われたくない」という一心で、仕事は何でも抱え込み、「自分だけが頑張っているのに、周りはどうして気づいてくれないんだろう」と思ったものです。わかりにくい人と思われていたと思います。しかし、声が変わってからは仕事が行き詰りそうになったら周囲に相談したり、力を貸してもらえるよう頼んだりしています。そして、かえってそちらのほうが、高い評価を得られるようになりました。
——ほかにも、このレッスンを受けて変わった生徒さんの例はあるのでしょうか。
司 「声が暗い、背が低い、モテない」と悩んでいる35歳くらいの男性の生徒さんがいらっしゃいました。彼はレッスンを受けることで「暗い声」が「低くて響きのある声」に変わり、すっかり自信を取り戻して、今では自分の才能を自分のだけのものにしてはならないと気づき、絵と詩の朗読を組み合わせたコンテンツを企画。臨床美術士に転身し夢を叶えました。
レッスンを受けたことで就職活動がうまくいった女性が、「自分の声が脳に入ってくるようになってきた。自分が生きていると実感できるようになった」とコメントされていたのも印象に残っています。
また、ウツで休職されていた方が、ボイトレや呼吸法、メンタルレッスンを通じて、自分の使命に気づいた例もあります。その方は、現在では大手出版社から本を出版するなど、作家として活躍されています。声をきっかけに「変身」される方を何人も見てきました。
——最後に、読者の方へメッセージをお願いします
司 ダメだった自分が、ボイス&メンタルトレーニングと出会ってから、自信を取り戻し、ボイス&メンタルトレーナーになった今、声やメンタルに悩む方々と向き合う中で思うのは、「人は誰でも必ず変われる!」ということです。もう遅いということはない。変わりたいと思った瞬間がスタート。今の声は、今まで生きてきた自分の集大成。だからこそ、自分自身が、楽しく、生き生きとした存在になれる「声」と「心の在り方」とは何か探求し、つかみとること。新しい「声」を手に入れることで、自分らしく話し、伝え、表現できるようになります。ボイス&メンタルトレーニングは「声」だけでなく、「自分を創る」トレーニングです。本書を通じて「変化」のきっかけをつかんでいただけたら嬉しいです。
「もう聞き返される人生を返上!!」声量がアップする「あごリラックス体操」動画
自分に自信を持つためには、まず自分の声を変えることが、一番です。音量をきちんと出せば、相手は話を聞いてくれるようになります。これから、簡単に音量をあげられる、即効性のある方法をご紹介しましょう。
まず、頬骨の頂点の真下に左右の親指を当て、押さえます。そのまま「あいうえお」と発声してみましょう。聞こえてくる声の大きさが変わるのがわかりますか? これは、頭蓋骨の目のくぼみの奥にある、「蝶形骨」がゆるんで、口の中の空間が広がるから。たったこれだけで、自分の声は変わります。
蝶形骨をゆるめる体操を行えば、次第にあごの緊張がほぐれて、声が大きく響くようになります。そして、小顔効果も期待できます。下記のリンクに詳しい体操の方法が紹介されているので、ぜひ試してみてください。
あごリラックス体操のレッスン動画はこちら
その他の動画レッスン
・「さらば噛み噛み人生!!30秒で滑舌がよくなる舌ラララ トレーニング」
・「お腹からはじめて声が出た!!ラクチン腹式発声法」
・「仕事に追いまくられて頭が真っ白!そんな人にはメンタルスッキリ丹田呼吸法」
・「カラオケで「うまっ!!」といわれるホイップクリーム歌唱法」
をご覧になりたい方は、司拓也さん、堀澤麻衣子さんの著書『1日でできる!声を変えれば、うまく話せる!』(メディアファクトリー)を購入すると閲覧できます。
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1日でできる! 声を変えれば、うまく話せる! 声のコンプレックスを解消して 会話上手になる発声法14 司拓也,堀澤麻衣子 |
(構成:今井明子)