書籍化しました!
“よむ”お酒(イースト・プレス)
本連載『パリッコ、スズキナオののんだ? のんだ!』が本になりました。
その名も『“よむ”お酒』。
好評発売中!
ひとり飲みや、晩酌のお伴にぜひどうぞ
細かくて、わしゃわしゃで、いっぱい
「小ねぎ」がたまらなく好きだ。「万能ねぎ」という商品名で売られていたりもする。似たようなものに「わけぎ」というのもあって、調べてみると「小ねぎ」、「万能ねぎ」、「わけぎ」はそれぞれ違うものらしいのだが、そこら辺のことは今はスルーする。とにかく、薬味に使われるような細いねぎ。白ねぎじゃなく緑色のやつ。それが私は好きなのだ。
鍋ものをする時はあの小ねぎがないと鍋自体をやめたくなるぐらいで、細かく刻んだものを大量に用意する。そして器の中に山盛りに入れて食べる。というか、鍋料理そのものはもはや、なくてもいい。小ねぎにポン酢かけるだけで酒のつまみになる。
実際にそれをつまみにして晩酌しながらぼーっと考えていて、「細かいものがわしゃわしゃっといっぱいあるようなやつ」が、私はほとんど例外なく好きなんじゃないかと思えてきた。
例えばベビースターラーメンだ。あの、こぼさずに食べ切ることなど不可能な、細かくバラバラにされた麺たち。相当わしゃわしゃしている。あれが食べにくいからであろう、「ベビースタードデカイラーメン」という、麺が平べったくつながったバージョンも出ているけど、それじゃ意味がない。
コーンも好きだ。たまに、コーンの缶詰を買ってきて、ドレッシングでも塩コショウでもなんでもいいから味をつけてスプーンで大急ぎでもりもり食べたい衝動にかられる。ポップコーンも好きである。
柿の種も好きだな。沖縄の居酒屋で付き出しとして出された「焼き大豆」もすごく好みに合った。節分の時にまくような炒り大豆にカレー粉で味付けしてあって、それが100粒ぐらい皿の上に盛られている。食べ出すと止まらない。
おつまみは線から点へ
さっきから、これが好きあれが好きと自分の好みを書き連ねているだけみたいだが、そういうことが言いたいのではなく、これらのものは酒のおつまみとしても優れているんじゃないかと、そういう提言がしたい。
まず第一に、細かいものが大量にあるので、それをちびちび食べていればたっぷりと間がもつ。そして、歯ごたえの気持ち良さである。一つ一つは小さなものたちが集まり、重なりあって繊細かつ複雑な歯ごたえを生み出す。あと、目の前に何かがたくさんあるということが心に多幸感をもたらすというのも重要なポイント。
以前、私が好きな、神戸に住む文筆家の平民金子さんという方と飲んでいた時、平民金子さんが、「酒のつまみにはカップ焼きそばが適している」と教えてくれたことがあった。私はカップ焼きそばをおつまみだと思って食べたことがなかったので意外に思ったのだが、大事なのは麺を細かく切ることだというのだ。熱湯を注いで待ち、湯きり口からお湯を捨てて、液体あるいは粉末のソースをかけるその前に、キッチンばさみでゆで上がった麺をザクザク切るという。そうすることで、一口一口が小さくなり、つまみ化するんだそうだ。
考えてみればこれは、“線”である麺を、ハサミで切って“点”に近づける行為といえる。やはり、点の集合であることが、いい酒のつまみの条件なんじゃないだろうか。
そう思い、まだ自分の知らない、でもやってみたら「これだ!」と思えそうな粒子系おつまみのアイデアを考えてみている。
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