洞窟の壁画に野生の牛や馬が描かれていることから、人間が狩猟活動を行うようになったのは10万年以上前と推測されています。人間は象のように身体が大きいわけでもなく、ライオンのように鋭い牙を持つわけでもない弱い生き物ですが、集団で狩りをし、そこで得られた食べ物を分かち合うことでコミュニティを形成し、今日の繁栄を得たのです。
その時代から肉を調理する基本は「焼く」ことでした。なぜ、肉は焼くとおいしいのでしょうか。大きく関係しているのはメイラード反応です。
高温で肉を熱すると大きな分子が小さな分子に分解され、いわゆる「肉っぽい香り」が出てきます。このいい香りは高温で加熱しなければ出てきません。香りをより強くしたければ糖類と一緒に調理すると、メイラード反応をより進めることができます。焼肉で糖分を含んだタレに漬け込むのはそのため。
ステーキ用の肉の部位。何が違う?
今日は奮発して牛肉のステーキを焼いてみましょう。
まず、スーパーでステーキ用の牛肉を買ってきます。しかし、スーパーの肉売り場に行くと「ヒレ肉(ステーキ用)」「サーロイン(ステーキ用)」「牛肩ロース(ステーキ用)」「もも、ランプ肉(ステーキ用)」という具合にいくつも種類があって、戸惑ってしまうかもしれません。同じステーキ肉ですが、それぞれ肉の部位も性質も違います。
どの部位がどのような性質の肉なのでしょうか。それは牛になった気分で四つんばいになり、草を食べる真似をしてみるとわかります。首や肩、胸、前足に力がかかり、背中は動きませんね? この時、力がかかっている部分がいわゆる《硬い部位》です。つまり、草などの餌を食べるときによく動かす首はもっとも硬い部位の一つ。
肉を構成している要素は筋肉=筋繊維と、腱(料理用語ではスジ)=結合組織、それから脂肪の三つです。もも肉やランプ肉(おしりの肉です)は牛の重い体重を支えるための筋肉が発達しているので、やや硬め。しかし、筋肉が発達しているということは味が濃い証拠でもあります。ランプ肉やもも肉をステーキにするときは叩いて薄くしたり、レア気味に焼いてから薄く切って食べるとおいしいでしょう。
逆に一番やわらかいのは背中の内側のあまり動かない筋肉のヒレ肉。動かない部位なのでやや淡白な味ですが、脂肪が少なく、やわらかいのが特徴で、人気があります。ただ、他の部位に比べると小さい部位なので、高価なのが難点です。
背中の肉はサーロイン。こちらもやわらかいですが、ヒレ肉よりも味が濃いので、ステーキ用の肉としては一番人気。
サーロインよりも前の位置にある肩ロースはどうでしょうか? 肩は歩くたびに動くので、サーロインより味は濃いのですが、動くための腱が入っています。腱は焼いても硬くて食べられないので、取りのぞくか、気にならない程度まで薄く切る必要があります。肩ロースの薄切りがよく『すき焼き用』として売られているのはこのためです。
腱(スジ)=結合組織は筋繊維を取り囲み、骨や肉同士を物理的に結合させている部分です。スネ肉のように動く必要のある部位ほど結合組織は多く、筋肉の力が強いほど、結合組織も太くなるので、動物が年をとって運動量が増えてくると結合組織も太く強くなっていきます。
結合組織の主要な成分は「コラーゲン」というタンパク質で、焼いただけでは食べられません。しかし、水の中で加熱すると「コラーゲン」は粘りのある「ゼラチン」に変わるので、焼くのではなく、長く煮込めばやわらかく食べられるのです。
強火で何度も裏返して焼く ステーキ
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