豊かな老後を満喫するには、資金計画をしっかり立てて、自宅を住み替えるのも一つの手だ
「駅前のマンションに住み替えたいけど、価格が高くて手が出ない」──。
近年、中高年の住み替えは、利便性を求めて駅近や都心の分譲マンションを選ぶ傾向が強い。ところが、そのマンションは新築、中古とも高騰するばかり。富裕層ならいざ知らず、老後の必要資金も考えれば、住み替えや建て替え費用を幾らまで捻出できるのか、頭を悩ませる人は多いだろう。
だが、新たな「終の住み処」に捻出できる費用の計算の前に、そもそもリタイア後の暮らしには幾らのお金が必要なのかが肝要だ。
18~69歳の男女約4000人を対象とした、生命保険文化センターの「平成28年度生活保障に関する調査」によれば、「最低限の暮らし」(以下、①)のためには、平均で月22万円が必要だと考えている。一方で、旅行やレジャー、日常生活の充実で「ゆとりある暮らし」(以下、②)をするには、①に平均月12.9万円を上乗せし、月34.9万円が必要だという。
この金額を前提に60~89歳の生活費を計算すると、①で7920万円、②で1億2564万円が必要となる。
では、①と②のケースごとに60歳までに貯蓄が幾ら必要なのか。ファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢氏に算出してもらった。
まず、この生活費以外の支出を計算する必要がある。それは介護費と葬儀費だ。その金額は、①の場合、介護費600万円(夫婦2人分)、葬儀費400万円(同)の計1000万円。②を望むならば、さらに有料老人ホーム費用の2400万円(同)を加え、合計3400万円となる。
一方、リタイア後の収入の柱となる年金は、65~89歳で幾ら受け取れるのか。厚生労働省のデータ上では、夫が平均的な収入(平均標準報酬42.8万円)で40年間就業し、妻が専業主婦の場合、月額22.1万円(2018年度)で、総額6630万円になる。
結果、収入から支出を差し引いた不足分は、①で2290万円、②で9334万円にもなる。
しかも、この試算は、自宅が持ち家ということが前提だ。日本では持ち家比率が8割超で、60歳以上の住居費は単身、夫婦世帯共に平均月額1万5000円前後で推移している(総務省)。つまり、持ち家比率が高いため、高齢になるほど生活費に占める住居費の割合が相対的に低くなるわけだ。
生涯賃貸を選択する人は、例えば高齢者施設には入らず、自宅で①の生活レベルで過ごしたとして、60~89歳で必要な住居費は家賃を月額10万円としても合計3600万円だ。生涯賃貸派はこの分だけ、持ち家派よりも多くの老後資金を準備しておこう。
建て替えもリフォームも
減税や助成がある
住み替えに代表される終の住み処選びは、これまでに見てきた老後資金の必要額を取り崩さないことが大前提となる。