今回の改正では、遺言書に添付する自宅などの相続財産の目録をパソコンで作成することも可能になり、より遺言書を作成しやすくなった。Photo:iStock/gettyimages
「自分が死んだ後、自宅がどうなるのか、妻が住み続けられるのか、不安だったが、制度が変わることで少し気持ちが楽になった」
東京都の会社員、橋本潔さん(仮名。58歳)は、そう言って安堵の表情を浮かべた。橋本さんは20代のころに離婚を経験し、それから程なく現在の妻と再婚。子供は前妻との間に1人いるが、現在の妻とは子宝に恵まれなかった。
現在、橋本さんは定年を前に、妻との老後を見据えた、より住みやすいマンションの購入を検討中だという。
「平均寿命から言えば、妻の方が自分よりも長生きする。自分が死んだ後、妻と前妻との子供の間で自宅をめぐる遺産争いが起き、せっかく買った自宅を売却する羽目に陥らないか心配だった」(同)
不動産市場に直接的な影響を与えるわけではないが、橋本さんのような中高年の「終の住み処」選びへの心構えを変える制度改革が19年1月から順次スタートする。約40年ぶりとなる民法の相続に関する規定(通称・相続法)の改正である。
「その趣旨を簡単に言えば、配偶者の権利拡大で、居住権を確保しつつ、より多くの金融資産を配偶者に与えるということ」と税理士法人レガシィの田川嘉朗統括パートナー税理士は言う。そして、その配偶者の保護は、自宅の扱い方を変えることで図られる。
“争族”の原因
自宅の分け方が大きく変わる
下図に改正の概要として五つのポイントを示したが、中でも相続をめぐる自宅への価値観を大きく変えるとして、注目を集めているのが「配偶者居住権」の新設と、結婚20年以上の夫婦を対象にした自宅贈与の“優遇措置”だ。
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