前編】50年前に生まれていたらSF作家になっていた

AR(拡張現実)を自在に操り、「楽しい自販機」アプリから「拡張現実ミュージカル」まで、世の中をわくわくさせる発明を発表しつづけている開発ユニット「AR三兄弟」。その長男である川田十夢さんがcakesに再登場(前回インタビューはこちら)。「ARは現代のSFだ」と語る川田さんが、ARを使って実現したいこととは? 子供のころや会社員時代の思い出を通じて見えてきたのは、「物語」をつむぎたいという、川田さんの思いでした。(聞き手:古賀史健

ARとは「現代のサイエンス・フィクション」である

— 川田さんのプロフィールっておもしろいですよね。「AR三兄弟」の「川田十夢」。そして「公私ともに長男」。

川田 本人はいたって真面目なんですけど、「十夢」が芸名だと思われたり、ふざけていると思われたり、いろいろ大変です。

— そこで最初に、AR(拡張現実)について聞かせてください。そもそも川田さんにとってのARとは、どういうものなのでしょう?

川田 ひと言でいえば「補助輪」でしょうね。

— 補助輪?

川田 僕は、いつも空想と戯れながら10年先や20年先の未来を「見て」いるんです。これは妄想ではなく、具体的な映像として見えている。でも、いきなり現実に存在しないモノや概念の話をしても、誰も理解してくれないんですね。そこでイメージの補助輪として、ARを提供する。

— ARを通じて未来を見せている、という感覚ですか?

川田 ええ。だから、もし僕がこの時代に生まれず、50年前に生まれていたらSF作家になっていたでしょう。

— なるほど、SF作家ですか!

川田 でも、僕が自分の大好きだったSF作家たちと同じことをやってしまったら、それはもうSFじゃない。過去を模倣することほど、非SF的なアプローチはありませんから。星新一さんが亡くなり、小松左京さんも亡くなり、いまほんとうの意味でSF作家と呼べるのは筒井康隆さんだけだと思います。

— たしかに。

川田 しかも厄介なことに、おそらく日本語という言語、そして活字というフィールドのなかでやれることは、ほとんどすべて筒井康隆さんがやり尽くしてしまった。筒井さんは原稿用紙の外にまで物語を書いた御方ですから。もし、彼の物語に「続き」を書くとしたら、まったく別のアプローチをとるしかないでしょう。

— 具体的には?

川田 プログラミングです。

— ああ!

川田 未来のことを空想して、プログラムを書いて、こちら側に引き戻して、現実に作用させる。そうでもしないと、ちょっとかつてのキラキラしていた時代のSFには勝てない。だからARなんです。

— ということは、川田さんは技術の人ではなく、アイデアの人でもなく、圧倒的に「物語の人」なんですね。

川田 そうですね、「お話」をつくるのは昔から好きでした。たとえば、母親が枕元で本を読んでくれる。物語が終わって母親が本を閉じたら、楽しい時間も終わってしまう。そこで母親が本を閉じる前に、こっそり言うんです。「ぼくが続きを知ってるよ」と。そして自分で考えた続きの物語を、母親に語ってあげる。そういうことは、小学生に上がる前からやっていましたね。毎晩のように新作を用意してました。

— へえ、それは素敵なお話です。

川田 これは活動のかなり早い段階から言っていることなんですが、星新一さんは「1001話をつくった人」と呼ばれています。だったら僕も「1001のARを発明した人」にならなきゃいけない。よく、AR三兄弟の制作ペースが早いと驚かれますが、星新一さんを基準に考えると当然のスピードなんです。

— なるほど。「現代のサイエンス・フィクション」としてのARか。

川田 過去のSF作家たちは、ありったけの空想力を働かせて未来の姿を描きました。逆にいうと、その物語を描く舞台は、未来や遠い惑星にしかなかった。でもARを使えば、「いま」を動かすことができる。目の前の現実を輝かせることができる。
 この点についてはものすごく意識的で、たとえばミュージックビデオを撮るにしても、ただ近未来的な映像を撮るだけでは、僕らの存在価値がないと思っています。ちゃんと物語(MV)が現実とリンクするようなアプリをつくって、物語を「向こう側」だけで終わらせないようにする。そうしないと、過去のSF作家を模倣しただけになってしまいますから。

— いまのお話を聞くと、川田さんの考えるARの本質が理解できる気がします。物語としての未来を提示するだけでなく、物語をしっかりと「いま」にリンクさせて提示する。その手段はすべてARと呼んでしまおう、と。

川田 そうですね。新しいプロダクトをつくって「はい、できました」と手渡すのではなく、新しい視点を与えて「未来はすでにここにある」とか「視点を変えるだけで未来になる」と提案する。それがARの役割かもしれません。

未来を見せるだけでは意味がない

— では、川田さんがARをはじめたきっかけを教えてください。

川田 もともと僕は「JUKI」というミシンメーカーに勤めていたのですが、そこでミシンとインターネットをつなぐ特許を取得したんですね。ちょうど2007年だったかな。これはいま考えてもかなり画期的な発明なんですけど、時代的にオーバースペックだったこともあり、周囲にまったく理解してもらえなかったんですよ。

— 時代の先を行きすぎていた。

川田 うん。このときに学んだのが「未来の技術を開発すること」も大切だけど、もっと大切なのは「未来を現在と結びつけること」なんだってことなんです。

— 未来を現在と結びつける?

川田 特許を取得して意気揚々としていたころ、出張先のタイの工場でこんなことを言われました。「おれたちは部品を注文したいとき、お前の会社の何百ページもある分厚いカタログを片っ端からめくって、品番や型番を探し当てなきゃいけない。たしかにお前は頭がいいし未来が見えるのかもしれないが、どうしてもっと簡単な発注システムをつくらないんだ」と。

— ああ、未来を変えるんじゃなくって、目の前にある現実を変えてくれ、というわけですね。

川田 そう。じゃあ、どうすればカタログを引かずに、型番もわからない部品を発注できるか。原理的にはまったくシンプルなんです。注文したい部品の写真を撮って、それをコンピュータで画像認識して自動発注するシステムをつくればいい。これさえできれば、「カタログをめくって照合する」という時間と手間を省略できる。
 そして、これって結局ARだったんですね。物質の形状を画像認識して、データベースに検索をかけて結果をアウトプット(発注)するという概念は。いまになって振り返ると、意識的にARを考えるようになった最大のきっかけは、あのタイ人のおじさんだったのかもしれません。

— でも、そういう「便利なツールとしてのAR」と、現在川田さんがやっているARは、根本的に違いますよね。

川田 違います。時代はこれから大きく変わっていくわけです。新しい技術が生まれ、新しい価値観が生まれ、新しいライフスタイルも生まれてくる。このとき僕は、できるだけ多くの人にその世界を受け入れてほしい、そのための素地を整えておきたいという思いがあります。
 そのために提供するのが、ARという補助輪です。まずは補助輪付きの自転車で走っておいて、時代が追いついてきたら補助輪をパッと外す。きっとそのころには、「あれ? これって昔、ナントカ三兄弟がやってたことだよね?」くらいの認識になるでしょう。

— まさに補助輪ですね。

川田 だから僕らは技術的な「すごさ」よりも、感覚的な「おもしろさ」を優先しています。もしも「おもしろかった」と喜んでもらえるのなら、技術的な「すごさ」は気づいてもらえなくてもいい。おもしろさをきっかけに、未来を体感してほしい。僕らのARにナンセンスでバカバカしいものが多いのは、そういう理由があるんです。

— なるほど。

川田 この補助輪としての活動は、一生続けていくでしょう。僕はおじいちゃんになってもAR三兄弟の長男でいるつもりですから。

(後編は8月16日(金)掲載です)

 

川田さんが、編集者・佐渡島庸平さんと、未来の編集領域について語ります!

会社って何だろう? ベンチャーじゃないとできないこと
日時:2013年8月19日(月) 19:00~20:15(懇親会20:15~21:15)
会場:池袋コミュニティカレッジ(西武池袋本店別館8F/池袋駅南口より徒歩3分)
受講料:3,360円+588円(一般/懇親会なし 飲食付き懇親会あり+2,415円)
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コルク

この連載について

未来はすでにここにある—川田十夢インタビュー

川田十夢

AR(拡張現実)を自在に操り、「楽しい自販機」アプリから「拡張現実ミュージカル」まで、世の中をわくわくさせる発明を発表しつづけている開発ユニット「AR三兄弟」。その長男である川田十夢さんがcakesに再登場。「ARは現代のSFだ」と語...もっと読む

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