未来は誰にもわからない。だから、生きる【第22回】

脳科学者・茂木健一郎さんと臨床心理学者・長谷川博一さんの対話は大詰めに。この世の中を生きづらくさせている「決めつけ」はほとんど無意味だという茂木さん。ひらめきや創造性を重視する姿勢に共振して、長谷川さんはカウンセリングの現場での実体験を話します。誰の人生にも劇的な変化は起こりうるし、いつ起こるかわからないのです。
話題の書籍『生きる──どんなにひどい世界でも』を連載で全文公開。(火・木・土更新)

photo by 飯本貴子

ピッチの上を 必死で走り回るように生きたい

茂木 人生を将棋に見立てて見ると、僕はとてもまだ有段者とは言えず、初級者でもないような感じがしてならないんですよ。このテレビに出たらどうなるかとか、これを本にしたらどうなるかとか、これから起こる連鎖を全部予想できるわけじゃない。

 まあ、人生そういうもんだと思うと、今の世の中を息苦しくさせてる「決めつけ」とか「枠入れ」っていうのは、ほとんど無意味だということがよくわかります。我が子を勉強させていい大学に入れたとしても、その先に何があるかはわからない。そのことが読者にもわかってもらえるんじゃないかな。

長谷川 でも、声が聞こえてくる。「頭ではわかるんですけど、そんなこと言っていられないんですよ」という、子育てに奮闘している世のお母さんたちからの切実な訴えの声が。

茂木 それが世間なんですよね。でも、そのお母さんたちはわが子の幸せを願ってるんだろうけど、一方であまり深くは考えていないんじゃないかとも思います。難しいところですね。最近の人工知能ってやつは、評価関数の最適化ということがよく言われるんだけど、自分の人生は最適化していない。

 人間って惰性で生きてるところがあって、今までこういう仕事をしてきたから、こういう仕事をいただくから、それを一生懸命やる、というところがあるでしょう。今年はこことここで授業をやることになっているし、学会もこれとこれがあるからって。そういうことを一生懸命やるのもいいんだけど、人生を俯瞰してみたら、本当は今の人生で欠けてるものや目指すべきマイルストーンが、あるのかもしれないと思います。

長谷川 惰性で目先の事象にばかりとらわれていると、ただ忙しいだけで生涯を終えることになりそうですね。

茂木 僕は40歳のときに突然、「そうだ、フルマラソンを走ってみよう」と思って、つくばマラソンに3回連続で出たんです。なんであのときフルマラソンを走ろうと思ったのかは自分でもわからないけど、まあ、走ったわけです。それから約10年後、また東京マラソンを走って完走した。フルマラソンなんて小さなことですが、「実はやってみたほうが絶対いいのに、気づいていないからまだやってないこと」があるんじゃないかと思うんです。だから最近、世間のことより、そっちを一生懸命やろうと思っています。

 ポイントは、人間には「未来の記憶がない」ということです。過去のことは覚えていても、未来の記憶を持っている人は普通はいません。未来がどうなるかは本当にわからない。今、「この先こうなるだろう」と予測していても、未来は誰にもわからない。

長谷川 そうですね。今、死にたいと思っていても、1年後、5年後、10年後には生きていてよかったと思うことがあるかもしれない。

茂木 未来はわからないから投げやりになるのではなく、わからないから、今、一生懸命生きる意味がある。僕だって1年後、脳科学者をしているかどうかわからない。それは考えても仕方がない。

 未来がどうなるかわからないからこそ、今の自分の範囲で一生懸命考えるんだけど、一生懸命考えるのは、未来が必ずこうなるって決まっているからじゃない。わからないからこそ考える。

長谷川 一般的には、将来の展望をしっかり立てて、それに向かってコツコツ進んでいきなさいというのがスタンダードな教育ですが、それは決して人が幸せになっていく上では望ましいやり方ではないということですか。

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生きる──どんなにひどい世界でも

茂木 健一郎,長谷川 博一
主婦と生活社
2019-07-19

この連載について

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生きる──どんなにひどい世界でも

茂木健一郎 /長谷川博一

「生きづらさ」の正体は何なのか? 現代社会の病理はどこにある? 脳科学者と臨床心理学者が出会ったとき、いのちが動きはじめ、世界の見え方が変わります──。7月19日発売の書籍を全文公開。

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tomshirai 目の前の子どもがど… https://t.co/8ZvK1ByuZ4 3ヶ月前 replyretweetfavorite