本館2階の「9室」展示。「能と歌舞伎 舞楽装束」(この展示は8月18日まで)。
常設展だからって油断できない展示替え
めくるめく浮世絵の世界を抜けて、展示室の奥へと向かう。いきなり浮世絵の名品に出逢えたのはラッキーだったかも。歌川国芳による武者絵のシリーズ、細部を見始めたらいつまでも見ていられそう。この部屋を去るのがちょっと名残惜しい……。
「浮世絵の展示はおおむね1カ月以内で入れ替わっていきます。次に同じ作品が観られるのは、ずいぶん先になってしまうかもしれません。お気に召した作品がありましたら、しっかり目に焼きつけておいてくださいね。その代わり、この展示室には続々と名品浮世絵が並びますから、そのつど楽しむことができるともいえますが。8月にここを彩るのは、葛飾北斎、喜多川歌麿、歌川豊国らによる夏らしい意匠を持った浮世絵の数々です」
えっ、そうなの。1か月しか展示しないなんて、ずいぶん短いんですね。展示物が多いから、それくらいの期間で回さないと出しきれないってこと?
「いえ、そうではないんです。和紙に摺られたものなので、長期間にわたって光にさらされると、傷みが激しくなってしまうんです」
あー、なるほど。作品の保護のためなんですね。
「紙や木を素材にして多くが築かれてきた日本文化は、石や金属を多用する西洋文化に比して、長期間の保存に耐えられないことがしばしばです。それもひとつの特色と考えたほうがいいでしょうね」
じゃあ、他の展示も入れ替わりが激しい?
「そうなんです。とりわけ書や絵巻物などは、浮世絵と同じく長い展示がかないません。ですから展示は、膨大な収蔵品を次々と入れ替えていくかたちとなります。ここ本館には、国宝を専門に展示する部屋もあるのですが、やはり出品のサイクルは1か月ごととなりますね」
それぞれの作品を、一期一会の気持ちで観にくるのがよさそうですね。
「そのとおりです。美術に使う素材の違いは、東洋と西洋の文化や美術の内容にもかかわっていると思われますよ」
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