米国で1990年代初頭に始まったAT&Tベル研究所やIBMワトソン研究所の実質解体とバトンタッチするかのように、効果を見せ始めたイノベーションの仕組みがある。「スモールビジネス・イノベーション開発(SBIR)」がそれだ。
京都大学大学院の山口栄一教授は、SBIRがスタートした82年以来のイノベーション創出効果を分析している。「SBIRは、米連邦政府によるベンチャー企業育成策で、大学などにいる無名の科学者を企業家に転身させるために国が設けた“スター誕生システム”」と山口教授は説明する。
SBIRは、連邦政府の各省庁の外部委託研究費のうち、一定割合をスモールビジネスに拠出することを義務付けている。2017年度以降は3.2%で、その総額は毎年約2000億円に達する。
選抜は3段階方式。第1段階は、公募テーマへのアイデアの実現性を探索する段階で、選ばれた企業には15万ドルの「賞金」が授与される。第2段階は技術の商業化を試みるフェーズで、良い評価を得た企業には2年間で最大150万ドルが拠出される。そして第3段階は、技術を商業化して社会実装するフェーズで、賞金ではなく民間のベンチャーキャピタルを紹介したり、新製品を政府が調達して市場の創出を支援する。
山口教授らの分析では、21世紀に入って毎年1500~2000人の無名の科学者がベンチャー企業家になり、11年までの実質被採択企業は約4万7000社を数える。
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