第269回 分数を極める:連分数の果てに(前編)

「あたし、グラフを描いていないことに気付いたんですっ!」連分数を追いかけるテトラちゃん。あなたもいっしょに追いかけよう!

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

ミルカさん:数学が好きな高校生。 のクラスメート。長い黒髪の《饒舌才媛》。

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図書室にて

ある日の放課後。

が図書室に行くと、テトラちゃんが熱心に書き物をしていた。

「テトラちゃん、何を書いてるの?」

テトラ「あっ、先輩! グラフですっ!」

「グラフ……何のグラフ?」

テトラ「連分数のグラフです。あ、いいえ、違いますね。連分数のグラフといいますか……数列のグラフです」

「?」

テトラ「あのですね。あたしがもらった《カード》とミルカさんの《カード》から、 調和数のことや、 連分数のことを考えたじゃないですか」

「そうだね。いろんな話題が繋がって楽しかった」

テトラちゃんの《カード》

ミルカさんの《カード》

テトラ「はい。不等式で大きさを調べたり、極限を考えたりしました。でも、あたし、グラフを描いていなかったことに気付いたんです」

「なるほどね。一般項が$H_n$で表される数列$H_1,H_2,H_3,\ldots$のグラフを描くとか?」

$$ H_n = \frac11 + \frac12+ \cdots + \frac1n $$

テトラ「はいはい、そうです。それから、連分数で表せる$\phi_n$もです。$$ \phi_n = 1 + \dfrac{1}{ 1 + \dfrac{1}{ 1 + \dfrac{1}{\ddots\dfrac{1}{ 1 + \dfrac11 }}}} \quad\REMTEXT{(横線$n$本)} $$ これを使った、 $$ \phi_1,\phi_2,\phi_3,\ldots $$ のグラフも描きます。グラフだとの変化がわかりやすくなりますから」

「確かに」

テトラ「$y = H_n$のグラフはこうです」

$y = H_n$のグラフ

「なるほどね。$H_n$の方は、$n \to \infty$で$H_n \to \infty$になることを証明したから、正の無限大に発散するはず」

テトラ「はい、そうですね。グラフではじわじわ増えていく感じなんですね」

「$\phi_n$も描いたの?」

テトラ「はい。$y = \phi_n$のグラフはこうなります。わかりにくかったので、$y$方向に引き延ばしてあります」

$y = \phi_n$のグラフ

「へえ……こんな感じになるんだ。すぐに収束しちゃうんだなあ……」

テトラ「はい。$\phi_n$の方は、$n \to \infty$で$\phi_n \to \phi$に収束します。黄金比$\phi$が極限値です」

「$\phi_n = \frac{F_{n+1}}{F_n}$だったよね」

テトラ「そうです。$\phi_n$は、フィボナッチ数列の隣り合う項の比でした(第264回参照)……それを計算してみると、$\phi_n$の値は増加と減少が交互にやってくるようです」

「ああ、そうなんだ」

テトラ「え?」

「うん、あのね、$F_n < F_{n+1}$だから、つい$\phi_n$も単調増加すると思っちゃったんだよ。錯覚、錯覚。勘違い、勘違い。フィボナッチ数列$F_n$が増加するからといって、その比$\phi_n$まで増加するとは限らないよね。当たり前の話」

テトラ「ああ……そういうことですか。具体的に計算するとよくわかります。こんなふうになりましたから」

$\phi_n$の表

$$ \begin{array}{llll} \phi_{ 1} &= 1/1 &= 1 \\ \phi_{ 2} &= 2/1 &= 2 \\ \phi_{ 3} &= 3/2 &= 1.5 \\ \phi_{ 4} &= 5/3 &= 1.\dot6 \\ \phi_{ 5} &= 8/5 &= 1.6 \\ \phi_{ 6} &= 13/8 &= 1.625 \\ \phi_{ 7} &= 21/13 &= 1.6\dot1538\dot4 \\ \phi_{ 8} &= 34/21 &= 1.6\dot19047\dot6 \\ \phi_{ 9} &= 55/34 &= 1.6\dot176470588235294\dot1 \\ \phi_{10} &= 89/55 &= 1.6\dot1\dot8 \\ \phi_{11} &= 144/89 &= 1.6\dot1797752808988764044943820224719101123595505\dot6 \\ \phi_{12} &= 233/144 &= 1.6180\dot5 \\ \phi_{13} &= 377/233 &= 1.\dot618025751072961373390557939914163090128755364806866952789699570815450643776824034334763948497854077253218884120171673819742489270386266094420600858369098712446351931330472103004291845493562231759656652360515021459227467811158798283\dot2 \\ \phi_{14} &= 610/377 &= 1.\dot61803713527851458885941644562334217506631299734748010610079575596816976127320954907\dot1 \\ \phi_{15} &= 987/610 &= 1.\dot618032786885245901639344262295081967213114754098360655737704\dot9 \\ \phi_{16} &= 1597/987 &= 1.\dot61803444782168186423505572441742654508611955420466058763931104356636271529888551165146909827760891590678824721377912867274569402228976697\dot0 \\ \phi_{17} &= 2584/1597 &= 1.\dot618033813400125234815278647463994990607388854101440200375704445835942391984971822166562304320601127113337507827175954915466499686912\dot9 \\ \phi_{18} &= 4181/2584 &= 1.618\dot03405572755417956656346749226006191950464396284829721362229102167182662538699690402476780185758513931888544891640866873065015479876160990712074\dot3 \\ \phi_{19} &= 6765/4181 &= 1.\dot61803396316670652953838794546759148529060033484812245874192776847644104281272422865343219325520210475962688352068883042334369767998086582157378617555608706051183927290121980387467113130829944989237024635254723750298971537909591006936139679502511360918440564458263573307821095431714900741449414015785697201626405166228175077732599856493\dot6 \\ \phi_{20} &= 10946/6765 &= 1.6\dot180339985\dot2 \\ \end{array} $$

「へえ……」

テトラ「$\phi_1 = 1$から$\phi_2 = 2$では大きくなり、$\phi_2 = 2$から$\phi_3 = 1.5$では小さくなり、$\phi_3 = 1.5$から$\phi_4 = 1.\dot6$では大きくなり……と、 大きくなるのと小さくなるのが交互にやってきます。 $\phi_7$より後はぜんぶ$1.61\cdots$になりますから、グラフではもう区別つかないですね」

「$\phi_{ 4} = 1.\dot6$というのは$\phi_4 = 1.666\cdots$のことだよね。$\phi_4 = 1.\dot6 = 1.666\cdots$から$\phi_{ 5} = 1.6$は小さくなってる」

テトラ「はい、そうです。小数表記で繰り返しになる範囲は、数字の上にドットを打ちました。 たとえば、 $$ \phi_{ 7} = 21/13 = 1.6\dot1538\dot4 $$ というのは、$1$から$4$までを繰り返す、 $$ \phi_{ 7} = 21/13 = 1.6\FBOX{15384}\,\FBOX{15384}\,\FBOX{15384}\,\FBOX{15384}\,\cdots $$ のことです」

「おもしろいなあ。$\phi_n = \frac{F_{n+1}}{F_n}$だから必ず有理数になる。だから、小数表記すると必ずどこかで割り切れるか循環するんだけど、 ときどきものすごく桁数が多くなる小数もあるんだね」

テトラ「そうなんですよ。びっくりしました。特に$\phi_{19}$がものすごいですっ!」

$$ \begin{array}{rcl} \phi_{19} &=& 6765/4181 \\ &=& 1.\dot6180339631667065295383879454675914852906\\ & & \phantom{1.}0033484812245874192776847644104281272422\\ & & \phantom{1.}8653432193255202104759626883520688830423\\ & & \phantom{1.}3436976799808658215737861755560870605118\\ & & \phantom{1.}3927290121980387467113130829944989237024\\ & & \phantom{1.}6352547237502989715379095910069361396795\\ & & \phantom{1.}0251136091844056445826357330782109543171\\ & & \phantom{1.}4900741449414015785697201626405166228175\\ & & \phantom{1.}077732599856493\dot6 \\ \end{array} $$

「これを根気よく計算するなんて、さすが!」

テトラ「あ、あの……」

「うん、やっぱりテトラちゃんだね!!」

テトラ「あの……おほめいただいてすみませんが、あたし、WolframAlphaを使ってしまいました……」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の女子高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わってください。本シリーズはすでに11巻も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

hsjoihs こういうの読んで復習すると、内容こそ10割方覚えているが「ああ確かにこれって感動すべき事実だよな」というのを忘れていたことに気づく 17日前 replyretweetfavorite

ffggss なんだろう。文章中の数式が色々とバグっている気がする。 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

as_bara3 なるほど、値と表記の話は近似精度の話につながるのか。言われると納得だけど自分では気づかない… 3ヶ月前 replyretweetfavorite

chibio6 黄金比φと一致する桁数をφnを使ってどう表すのだろうか? まったく思いつかない。 3ヶ月前 replyretweetfavorite